藤色の守護者(20)
紅と秋幸は、義藤が離れた場所で待っていた。紅は床に座り、退屈そうに瓦礫を投げていた。秋幸は義藤に助けを求めるように不安そうな目をしていた。その不安そうな秋幸の目の色が変わった。
――源三。
どうやら、間違いないようだ。秋幸が見つけていた官府内部にいる紅に近しい人物。可那は源三に繋がっているのだ。
「遅かったな、藤丸」
紅が木屑を義藤に投げ、義藤はそれを右手で受け止めた。紅は義藤に遠慮が無い。
「悪かったな」
義藤は受け止めた木屑を床に捨てると座っている紅に手を差し出した。
「あの声の主か?」
紅は義藤の手を取ると、立ち上がりながら義藤に尋ねた。
「ああ、書棚の下敷きになっていてな、助けてきた」
義藤が言うと、紅は「へえ」と答えた。答えながらも紅の持つ赤色が強まった。可那は術士で無いから気づかないだろう。しかし、義藤には分かる。きっと、秋幸にも分かるはずだ。己の身体の中にある赤がざわめくからだ。この迫り来るような赤の威圧感を可那が気づいているか分からないが、只の術士であれば相手が紅であると知らなくても、只者でないと分かるはずだ。
「お礼を言うわ。ありがとう」
可那は何ともいえない表情で言った。
「私は可那よ。只の医療に携わる官吏。あなたたちは、雇われ護衛でしょ。だから、刀も持っている」
可那は少し怯えたような目をしていた。紅はにっと笑った。更に紅の持つ赤が深まる。
「そうだな。義太郎だ。あちらは秋幸。よろしく」
当然のように紅は偽名を使い、当然のように紅は素性を隠した。もしかすると、紅は見ず知らずの者を引き入れたことに怒っているのかもしれない。義藤が紅の強い目に怯えたとき、紅は囁くように言った。
「お前のことだ。理由があって連れてきたんだろ」
義藤は何も言えなかった。
「官吏の仲間を探しているらしい。少し、手を貸しても問題ないと思ってな」
義藤が言うと、紅は笑った。
「ならば、行こう。一体、誰を探しているっていうんだ?」
紅が尋ねて、可那が答えた。
「源三様です」
その名を聞いて、紅は笑った。
「ならば、われわれの雇い主は、しばらくの間、あんただ」
萎縮している可那が可哀想で、義藤は苦笑した。
「秋幸、一緒にいてやれ」
義藤は毒の少ない秋幸に言った。秋幸は、困った顔をしながら頷いた。