藤色の守護者(18)
さて、この女性をどうするか。義藤は迷った。このまま一人にしておくのは危険だ。異形の者は官府の頂点に居座っているとはいえ、これからどのような行動に出るのか分からない。万一、再度、異形の者と刃を交えることになれば、先のような戦いになる。戦い巻き込まれないとも言い切れない。
――困ったものだ。
残していけない。でも、連れて行けない。一緒にいるのは紅なのだから、紅を得体のしれない官吏と会わせることは出来ない。この可那という官吏が、誰と通じているのか分からないのだから。いつ、紅が狙われるか分からない。紅を守るために、紅に近づけることは出来ないのだ。
――困った。
義藤は思わず頭を掻いた。
――可那。
義藤は官吏を見た。
――源三という者の下で働く官吏。
源三。
源三。
源三。
義藤はその名前を反芻した。聞いたことがあるのだ。どこかで、聞いたことがあるのだ。そして、はっとした。
――紅よりの官吏。源三。
秋幸は紅よりの官吏として源三の名を出していた。
目の前にいる可那は、源三と繋がっている。ならば、義藤は可那と離れることは出来ない。この可那が紅と官府の和解の鍵になるのかもしれないのだから。
「一人でいると危険だ。あちらに仲間がいる。一緒に来ないか?」
義藤は可那に言った。本心は、言葉のように悠長なものではない。一緒に来てもらわなくては困るのだ。そもそも、義藤たちは源三に会うために官府に来たのだから。一緒に来てもらわなくては困ると思いつつ、義藤は強く言い出せずにいた。もしかすると、義藤は、本心では源三を信じていないのかもしれない。官府に紅の仲間がいると信じられないのかもしれない。これまで、何度も、何度も官府には煮え湯を飲まされているのだから。だから、己の身分を明かすようなことはしない。紅のことを明かすようなこともしない。怪しまれずに、可那と行動を共に出来るのなら、それに越したことは無い。ここで、可那が共に行動をすることを拒めば、こっそりと後をつけるだけだ。術士でも赤影でもない可那の後をつけるなど造作もない。
「あなたの雇い主は?藤丸」
可那が義藤に尋ねた。それは何とも困った問いだ。雇い主など、いるはずもない。適当な名を言うことも、紅や秋幸を雇い主に見立てることも出来ない。義藤は思考をめぐらせた。