藤色の守護者(17)
官府で刀を持つ者は殆どいない。罰せられるのかもしれない。藤丸として隠し持っていたから、持ち込むことが出来たのだ。
「あなた、何者?どこの所属なの?」
彼女は義藤を疑っている。この状況だ。それは当然の流れかもしれない。
「それはこちらの台詞だ」
義藤は誤魔化し、彼女を問い詰めた。
「異形の者がいると知りつつ、官府に戻ってきた。火事泥棒のような行動だな」
苛立つように、彼女は頬を膨らませた。
「私は可那よ。確かに、私が異形の者がいることを知りつつ戻ってきた。戻ってきたところ、強い揺れが起きてあの始末。あなたが助けてくれるまで、もがいていたわけ」
義藤は尋ねた。
「なぜ、戻ってきた?戦う力も持たない官吏が、危険を承知で。まさか、術士なわけないだろ?」
隠れ術士はどこにいるのか分からない。しかし、術士が先のような状況に陥るとは思えなかった。
「確かに、私は無力な官吏よ。戻ってきたところで、何も出来ない。でも、きっと、あの方は、源三様は逃げないだろうから。私は、医療に携わる官吏よ」
早口で勢い良く話すのは彼女の癖だろう。義藤より年上だろうことは確かなのに、今までであったことの無い雰囲気を持っているから不思議な気分がした。
「それで、あなたは?」
可那という官吏は義藤に尋ねた。さて、ここで素性を明かすか、誤魔化すか。義藤は可那という官吏を見た。信じられる者か、信じられぬ者か、判断するには情報が少なすぎた。適当な部署を言うにしても、可那がそれに精通していては嘘が見抜かれてしまう。上手く、誤魔化すしかない。
「俺は、藤丸だ。雇われ護衛のようなものだ」
義藤は偽名を使い、誤魔化した。
「そう、助けてくれてありがとう、藤丸」
可那は子供のように笑った。