藤色の守護者(15)
紅と赤影の間で何かしらの会話があった。義藤が理解できるのは、その一部でしかないが、確かなことは今、危機が生じているということだ。少し、紅の後姿が翳っている。その翳りが義藤の胸を締め付ける。
「紅」
義藤は思わず紅を呼んだ。振り返った紅は、普段と変わらない表情をしていたが、義藤にはその目に悲しみの色が見えた。
「赤丸と赤星に何があった?」
もちろん、義藤は赤星が誰なのか知らない。悠真を連れている赤影の一員だ。人柄も、容姿も何も知らない。だが、紅が案じているということは、何かがあるということだ。そして、赤丸。赤丸は無事なのか。義藤は赤丸を思った。――だが、赤影は裏の存在。表の存在である義藤が関われる者ではない。話すことは、許されないことかもしれない。
「言えないなら、それでも良い。俺は表の存在だ。裏の存在である赤影に関わることは許されないし、紅が裏の存在である赤影を隠さなくてはならない立場だということも知っている。紅、一人で抱えすぎるな。俺は、ここにいる。何があろうとも、紅の近くにいる」
義藤にとって、紅はそういう存在なのだ。
「お前は腹が立つくらいに気が利く奴だな」
紅は一つ嫌味を言うと、義藤に近づいた。そして、小さな声で吐き出すように言った。
「赤丸は異形の者と戦った。あの、異形の者だ。それこそ、黒の色神を追い込み、異形の者が暴走するまで戦い続けた。悠真がいなければ、殺されていたかもしれない。赤星がいなければ、死んでいたかもしれない。今、そんな赤丸が傷つき、官府にいる。私は、助けに行かなくてはならないのに、助けに行けないんだ。深い傷を負った赤星が傷みと苦痛と共に悠真を守ろうとしてくれている。悠真を守りながら、黒の色神を探してくれている。私は赤星に何も出来ない。それは、私が色神だからか?赤影は色神を守る存在だから、命を賭して当然だというのか?情けない。私は、情けない存在だ。何も、出来ないのだから」
紅の不安と不満。義藤は、紅に一人で抱えて欲しくなかった。
「何度も言うが、赤丸なら心配するな。その強さは俺がよく知っている。あいつは、簡単に死んだりするような奴じゃない。赤丸は、強い。本当に、強い存在なんだ」
義藤が赤丸に抱く劣等感。同じ容姿をしていても、生まれながらの才が違う。赤丸は、忠藤は、いつも義藤の上を走っているのだから。
紅は笑った。
「赤丸も同じようなことを言っていた。不思議なものだな。赤丸は義藤に劣等感を抱き、義藤は赤丸に劣等感を抱く。互いが互いを認めているという証拠だな」
紅が赤く笑った。