藤色の守護者(10)
義藤は、紅の話を理解したつもりで、おそらくはその一端しか理解していないのだろう。紅も全てを語ったとは思えない。重要なところは隠す。それが、義藤の知る紅だ。
「ならば、信じるしかないだろ。それで、黒の色神の方はどうするつもりだ?」
義藤は紅に尋ねた。
「ひとまず、野江や都南、佐久を呼ぶ。春市と千夏は柴と赤菊、薬師の救出だ」
紅が言い、秋幸に言った。
「秋幸、悪いが少し代わってもらえるか?あいつを押さえるの。疲れたら遠慮なく言うんだ。すぐに代わるから」
紅が言うと、秋幸は頷き紅の石を取り出した。
秋幸ば紅の石を取り出し、異形の者の首を押さえつけるように力を発したのを確認して、紅は石を使うのをやめた。
「なんだかんだで、同時に石を使うのは厄介だからな。当然ながら、私は紫の意志との相性が悪いものでな」
紅は言い訳のように言った。何とも、負けず嫌いの紅らしい。一つ言い訳をした紅は、力を手首に数珠のようにつけた紫の石に呟こうとしたとき、目を細めた。
「どうした?なぜ危険を告げる?」
紅は彼女自身の石を取り出した。すると、紅の石が赤く光を放ち始めていた。共鳴とは違う。秋幸の石が何の変化もきたしていないからだ。
「何が来るって言うんだ?」
紅が石に尋ねた直後、異形の者の首が膨れ上がった。強大に、そして醜悪に。
「くそ!」
紅が石の力を首に向けると同時に、義藤は異形の者に向かって駆け出した。あの時と同じだ。団子屋で対峙したとき、異形の者は途中から急に強くなった。それは、黒の色神が力を与えていたからだ。首を押さえられていても、身体が立ち上がった。首を捜して、暴れていた。
「紅!黒の色神は自由が利かないんだろ!」
黒の色神の自由が利かないのに、なぜ異形の者は強くなったのか。それが理解できない。
「私に聞くな!確かに黒の色神の自由は利かない。ならば、あいつは、あの異形の者は勝手に主人の力をむさぼっている。そうとしか言えないだろ!」
紅は叫んでいた。