藤色の守護者(9)
紅は大きく伸びをして、異形の者から少し離れたところに腰を下ろした。
「こいつがここにいる限り、私たちはここから離れられない。私と秋幸はあいつを押さえなくてはならない。それに、お前は疲れた私たちの護衛だ。安心しろ。黒の色神も自由が利かない。敵は、暴走したあの異形の者だけ。あいつを押さえれば、時間は稼げる」
義藤は紅を見つめた。なぜ、紅はなぜ黒の色神の自由が利かないと分かっているのだろうか。紅は色神だ。人であったころ、共に育ったとはいえ、今も身近にいるとはいえ、紅は色神だ。ただの人間である義藤とは違う世界にいるのだ。色の石を生み出し、色に愛されている。その事実を感じるたび、義藤は己と紅の間にある埋めることの出来ない大きな溝を感じるのだ。その隙間を埋めたいと思うが、義藤には踏み出す勇気が無い。義藤はただ、紅の近くに入れればよいのだ。
「義藤、私に聞きたいことがあるんだろ」
義藤がそんなことを思っていると、ふと紅が口にした。紅は笑うと秋幸を見た。
「そして、秋幸。お前も私に聞きたいことがある。おそらく、二人が尋ねたいことは同じだ。知り合って日の浅い秋幸なら未だしも、義藤。なぜお前が私に遠慮する必要がある?何年間、お前の顔をこんな近くで見てきたと思っているんだ?今更、遠慮するな。義藤。お前が代表して聞かないか?」
紅は高圧的に言った。それでこそ、紅らしい。強く、美しい。それでこそ、紅なのだ。秋幸が緊張のあまり表情を固めている。当たり前だ。慣れていないのだから。強張った表情の先で、義藤に助けを求めている。義藤は一つ息を吐いた。紅の近くにいると、何度、溜め息をつくのだろうか。何度、紅の無茶な行動に降りまわされて、どれほど紅を心配しなくてはならないのだろうか。それを知っていても、義藤は紅から離れることが出来ないのだ。出会った時に、この子を守ると誓ったのだから。
「ならば、聞かせてもらう。紅、なぜ黒の色神の自由が利かないと分かるんだ?確証が無いことを、俺たちは信じられない」
何を思っているのか分からない。紅は端的に答えた。
「赤が答えたからさ」
「赤とは何なんだ?」
「赤とは色だ」
義藤は言っていることの意味が分からず、困惑した。
「赤が色だとは分かっている。だが、なぜ、色が紅にそんなことを伝えるんだ?」
言うと、紅は困ったように頭をかいた。
「本当は、あまり公にして良いことではないのかもしれないが……私は赤に選ばれて紅となっただろ。赤は色の世界で存在する者だ。それこそ、赤を象徴する者。色の世界で生きる者だ。本来、赤は私たち人間たちの争いに干渉してこない。干渉できないのだと、私は考えている。なぜなら、本当にこの世界で力を発揮することが出来るのなら、先代の紅を易々と死なせるはずが無い。その赤が、私に情報をくれたのさ。姿を見せてな。だから、間違いない。赤を信じろ」
紅は笑っていた。