藤色の守護者(8)
首が戻らぬためか、身体は立つ姿勢を保てず崩れ落ちた。前足でもがいていたが、首にたどり着けず自由に動けていない。首は首で動こうとしているが、紅の石の力で押さえつけられ自由が利かないようだった。
「やはりな」
紅が不敵に笑い、足を進めて義藤の横に立った。そして、未だに刀を抜いたままの義藤の腕を叩いた。
「全ての物に核がある。それは、異形の者であったって同じだ。特に、異形の者は黒の石から作られている。ならば、黒の石を押さえれば、こちらのものだ。おそらく、異形の者の核になっている黒の石は眉間だ。ならば、首を押さえれば身体は動けない。全身を押さえるに比べて、頭だけならこちらも大きな力を使わずに押さえることが出来る。時間を保ちやすい。私と、秋幸が交代で押さえればしばらくは問題ないだろう。疲れれば、野江や佐久や遠爺。春市に千夏、冬彦を呼べば良い。今、私たちには仲間がいるんだ。多少の時間稼ぎくらい、問題ないさ」
義藤は紅の横顔を見た。異形の者と対峙した数回の間に、紅はそこまで気づいていたのだ。異形の者に核があるかもしれない。義藤はそのことにすら気づいていなかったのだから、紅との力の差をまざまざと感じさせられるのだ。
義藤は一つ息を吐いた。紅は色神になっていなければ、優れた術士になっていただろう。それこそ、野江や都南や佐久を凌ぐ術士にだ。洞察力にも優れ、剣士として優れ、術士としても優れ、天性の才能を持っているのだから。
「私の才能にひがむなよ。私は色神紅だ。簡単に負けてたまるか」
紅が冗談めいて笑った。ひがむなと言った紅の口元が笑っていた。紅は色神だから強いのではない。もともと強いのだ。歴代の紅が同様に皆強いのならば、容易く暗殺される紅が多いはずがない。先代の紅は赤丸と共に死んだのだから、敵がよほど強かったのだろうが、それにしても歴代の紅は殺されすぎている。真に優れているのは、紅自身なのだ。
「ひがむもなにも、俺は紅に一度も勝ったことがないが?その嫌味は野江に匹敵するな」
義藤が言うと、紅は笑った。この場の緊迫感を消し去る、赤い笑いだ。義藤はその笑顔にすこぶる弱いのだ。