藤色の守護者(6)
前を歩く紅、そして、その後ろを歩く義藤と秋幸。歩いていた紅は突如足を止めた。
「どうした?紅」
義藤は紅に尋ねた。前に回って紅の表情を確認すると、紅の表情が見る見る影っていく。
「どうした?」
義藤は尋ねた。
「赤丸……」
紅が一言呟いた。
何かが起こった。それは明らかなのに、義藤は紅に尋ねることが出来なかった。想像するに容易い。赤丸に危険が迫っているのだ。黒の色神の襲撃を受け、一人で戦っている赤丸の身に何かが起こったのだ。
「赤、そっちはそんなことになっているのか?もう、止まらないのか?――悠真はどうなった?赤丸はどうなった?」
紅の目から一筋の涙が零れた。頬を伝う涙は、顎を伝って落ちた。あまりの美しさに、義藤は息を呑んだ。何かが起こっている。人間である義藤には分からない何かを紅は見ているのだ。義藤が触れることが出来ない何者かが、紅に何かを伝えているのだ。伝えられたのは絶望的な情報。おそらく、赤丸の窮地を知らせる情報だ。それに、紅は心を痛めているのだ。
「紅、俺は赤丸を信じている。覚悟を決めたところで、赤丸は負けたりしない。信じろ。赤丸を」
義藤は紅に言った。忠藤の強さを義藤は知っている。忠藤の強さは本物だ。一緒に生きてきた義藤だから分かるのだ。忠藤が死の覚悟を決めたところで、忠藤の才能は彼を生かし続ける。それだけの才能を、赤丸は持っているのだ。
「そうだな、義藤。お前の言うとおりだ。赤丸は才能に溢れた術士だ。簡単に負けたりはしないだろう」
紅は遠くを見た。
「悪い赤。少々取り乱した。――それで、赤丸と悠真は?黒の色神はどうなった?」
紅は一人で言うと、少し時間を置いてから頷いた。
「分かった。ありがとう。すまないな。赤まで引っ張り出してしまって。こちらのことに深く関わらせてしまって悪かった。こちらのことはこちらで何とかする。ああ、異形の者も何とかするさ。皆、生きているんだろ。だったら大丈夫だ。生きているんだからな。異形の者が連れ去ったのは、赤丸、悠真、赤星だな。安心しろ、何とかする。皆、頑張ってくれたんだ。次は私の番だ。赤は自分のことを何とかしろ。そちらも混乱しているんだろ。黒のこと、気にかけてやれ」
紅は言うと、優しく微笑んだ。誰もいない場所に向かってだ。しかし、きっとそこには誰かいるのだ。「赤」がいるのだ。そもそも、義藤はずっと疑問に思っていた。色が色神を選ぶ。それは誰もが知る事実だが、どのようにして色が選ぶのかは分からない。色とは力を持つが抽象的なもので、意思を持つとは思えないからだ。その色が人を色神にする。ならば、色は意思を持ち、人の前に姿を表す。赤に選ばれた紅が、その姿を見て言葉を交わしても不思議でない。