藤色の守護者(4)
義藤は抱きしめたくなる衝動を抑えながら、ゆっくりと紅の肩を持つと、しがみつく紅を引き離した。
「どうしたんだ?」
尋ねると紅は俯き、小さく呟いた。
「すまない。少し、情けなかったんだ。赤丸との連絡が途絶えた。もしかすると、黒の色神は、監視に気づいた赤丸を最重要危険人物として認識したのかもしれないな。赤丸を助けに行きたいが、それも出来ない。死なせることは出来ない。赤丸も、悠真も、柴も、赤星も、赤菊もだ。義藤、今、私には何が出来るのだろうか?」
紅はとても不安気に答えを探していた。いつも自らの力で答えを見つけ出す紅からすると信じられない姿だ。それほどまでに紅に不安を覚えているのだ。何と答えるべきなのか、義藤には最善の答えが分からない。しかし、答えが分からなくても、義藤が紅に伝えたいことは一つだけだ。それが正しくても、誤っていても、義藤が紅に伝えたいことは一つだけなのだ。
「何が最善なのか、紅に何が出来るのか、俺には分からない。だって、そうだろ。俺は紅じゃないんだから。でも、俺は信じている。紅のことを。そして俺は信じている。赤丸のことをな。信じて、出来ることをするだけだ。俺たちは今、官府の中にいる。官府の中にいる俺たちでなければできないことがあるだろ」
紅は俯いていた。その肩を叩いて、義藤は続けた。
「それで、秋幸はどうなった?」
義藤は尋ねた。小さき異形の者を追った秋幸が、黒の色神の居所を掴むことが出来たのならば、状況は大きく変わる。
紅は手首につけた紫の数珠を口元に当てると小さく呼びかけた。
「秋幸。秋幸」
呼びかけた紅は小さく頷いた。
「分かった、戻ってきてくれるか?場所は……」
紅は言うと、辺りを見渡していた。ここがどこなのか、何と説明してよいのか難しいところがある。義藤は紅に言った。
「俺たちが迎えに行こう。紅は秋幸の持つ紅の石をたどれるんだろ。どうせ、俺たちも今、どこにいるのか分からないし、どこへ行けば良いのかなんて、分からないんだからな」
義藤が言うと紅は頷いた。
「秋幸、私たちが迎えにいく。少しで良い。紅の石の力を発生させてくれ」
紅は言うと、立ち上がり義藤に背を向けた。先ほどまでの小さく不安気な背中はどこへやら、今の紅は強く自信に満ち溢れている。これが本当の紅なのか、先ほどの不安げな紅が本当の紅なのか、義藤には分からない。確かなことは、紅が進むべき道を見つけたということだ。
義藤は何も言わず、そっと紅の後を追った。斜め後ろから紅の後ろを歩き、いつものように紅の背中を守るだけだ。