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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の守護者(2)

 紅が自由に動けるように、義藤は答えた。

「俺の親父も様々な工芸を集めていてな。親父が見たら喜ぶだろう。いつか、連れてこよう。赤い布を瑞江にくれてやってもかまわない、と親父は言うだろう」

義藤はちりめん問屋のどら息子を演じるために、適当なことを答えた。莫大な経済力を見せ付けるような発言を放ったのだ。

 紅が押えていた異形の者は暴れて、逃げ去った。瑞江寿和に気づかれないように、力を弱めていたとしても、赤の色神である紅の力から逃げたのだから、色神同士の力は互角なのかもしれない。色の優劣があるのか義藤には分からないが、赤と黒の戦いはどちらが優れているのか示すことは出来ない。ならば、義藤たち術士が紅を守るために出来ることは限られている。黒の色神の注意を引きつけ、数に任せて戦うしかない。ここは火の国。赤の術士のほうが多いのだから。

「ならば、一度、父上も招くとよいでしょう。瑞江が案内しますので」

瑞江寿和の話は、義藤にとって無関心な話だった。どちらにしろ、瑞江寿和の頭の中には、ちりめん問屋のどら息子を丸め込んで、ちりめん問屋の資金を狙っているだけなのだ。紅から逃げた小さき異形の者。義藤はその行方を追うことが出来なかった。しかし、窓の外に逃げなかったということは、もしかしたら官府の中に黒の色神がいるのかもしれない。


 紅が秋幸を手招いて、秋幸の耳元で何かを囁いた。直後、秋幸は異形の者が去った先を追って走り始めた。紅の命で追いかけたのだろう。秋幸は優れた術士であり、紫の石も持っている。秋幸ならば、大丈夫だろう。


――信じろ。


義藤は己に言い聞かせた。今にも走り出しそうな衝動を押さえ、己はここにいるべきなのだと言い聞かせたのだ。


――秋幸ならば問題ない。


今、義藤のするべきことは、逃げた異形の者を追うことではない。今、義藤のするべきことは、戦う力を持つ者が自由に動けるように舞台を作ることだ。


 それでも、義藤の不安は消えない。


「寿和殿。俺は少々歩き疲れた。少し休憩せぬか?」

義藤は瑞江寿和に言った。すると、寿和はへこへこと頭を下げて笑った。

「ならば、少し休憩いたしましょう。あの部屋で少しお待ちください」

寿和は近くの部屋を指し示した。そして秋幸が不在のことに気づいたのか、小首をかしげた。

「それで、藤丸殿。御付の者が一人足りぬようですが?」

言われて義藤は適当に答えた。

「さっきまではいたのだがな。休憩をして待っていれば、すぐに戻ってくるだろう。あいつは迷子になりやすいからな。何か、見られて困るものでもあるのか?」

義藤の問いに、瑞江寿和はあからさまに表情を歪めた。おそらく、本人は気づいていないのだろうが。

「いえ、とくに何もございません。あの部屋で少しお休みください。茶でも持たせますので」

瑞江寿和は笑った。愛想笑いにもなっていない。それでも義藤は、瑞江寿和から離れることに成功したのだ。このまま、奴と一緒にいることは出来ない。


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