赤と異形の者と官府(13)
声が違うのは、体が違うからなのか。そもそも、なぜ犬がしゃべっているのか、悠真には理解できなかった。燈の石がそのような力を持つとしても、本当の身体は人間のはずだ。動けない悠真が犬の顔を見ていると、犬は笑った。鋭い牙が並んだ口から、人間の声が発せられる。
「俺のことを考える前に、今の状況を理解しろ。そんなんじゃ、生き残れないぞ」
赤星に言われ、悠真は思い出した。先ほどまで、森の中にいたことを。先ほどまで、冷たい雨が降っていたことを。今、悠真は暗い場所にいる。雨は降っていない。下は土だが、乾いている。犬がゆっくりと体を動かした。犬も立ち上がらない。立ち上がれないのだろう。もがくように犬が動くと、その先に倒れる赤丸の姿が見えた。喰らいのに照らされているのは、蝋燭の光があるからだ。ここは、どこかの牢のようだった。
「異形の者は?黒の色神は?何でここに?」
悠真が問うと、赤星は苦笑した。
「異形の者は止まらなかったのさ。お前も頑張っていたがな、あれは無理だ。異形の者は俺たち三人を連れて、飛び立ったんだ。赤丸はあの状態だし、俺も動けなかった。言い訳に聞こえるかもしれないが、何せ、石はお前が持っていたし、俺の体も限界に達していたんだ。異形の者は俺たちを連れて官府へ戻り、戸惑う官吏を横目に俺たちをここへ入れ込んだ。騒ぎに気づいた官吏は逃げ出したようだ。官府は、ほぼ無人だろう。残っているのは、情熱に満ち溢れた者か、怖気づいた者だろう。幸いというべきかも知れないが、異形の者は暴走していない。暴走はしていないが、黒の色神の命令にも従っていない。そういう状況らしい。異形の者の行動は一つの意図で動いており、人間が操っているように思えないからな」
赤星はゆっくりと続けた。
「赤丸はしばらく無理だろう。あの状況で戦い続けたんだ。褒めてやってくれ。これ以上無理をさせれば、赤丸が死んでしまう。野江や都南が逃げ出した官吏からことの顛末を聞いて、ここへ救援に来たとして容易くは行かないだろう。つまり、俺たちも休んでいられないということだ。目覚めた赤菊が柴のことは何とかしてくれるだろう。赤山も動き始める。俺たちは俺たちの仕事をしよう。だから、お前が起きるのを待っていたのさ」
言うと、赤星は這うようにして赤丸に近づいた。
「俺の石は、薬師の場所に残されてしまったからな」
赤星は言いながら、赤丸の懐に鼻を突っ込んだ。悠真が何をするのか分からずに、驚いたのは言うまでも無い。
「赤星一体……」
悠真が言うと、赤星は鼻を出した。