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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤と異形の者と官府(11)

 黒になったからと言って、世界が変わるわけではない。悠真は悠真のままで、黒は黒のまま。赤は赤のままなのだから。悠真は膨れ上がった異形の者に足を進めた。異形であり、黒の色神は歪で醜悪な顔でこちらを見ていた。黒い目の奥に、悠真は澄んだ黒を見た。


(黒)


悠真は心の中で黒を呼び、そして目を細めた。


(大丈夫)


悠真は心の中で黒に呼びかけた。下村登一の乱の時に、異形の者の力を収束させた時と同じだ。原理が分かっていなくても、無色は黒が力を貸してくれているから問題はない。何より、悠真の感覚が覚えていた。


 悠真の体に黒が満ち始めた。空っぽだった器に、黒いものが満ちていくような感覚だ。悠真は黒になり、黒は悠真の一部であり、支配下である。黒は悠真を操っているようであり、悠真は黒に利用されているようである。この感覚が、色と色神の関係だ。


 悠真は手を伸ばし、異形の者に触れた。


濁流のような黒があった。下村登一の時の比でない、濃厚な黒がそこにあった。悠真の体は黒の濁流に押し流されそうになり、必死に足を踏みとどまった。現実に色の濁流などありえないのだが、悠真は濁流の中にいるような感覚だったのだ。


――悠真。黒のために、助けてあげてちょうだい。黒を恐ろしい色にしないように、黒を恐怖の色にしないように、黒を邪悪を象徴する色にしないように、黒を助けてちょうだい。本当の黒は、そんな色じゃないの。


無色の声が悠真を支える。無色の声が黒の濁流から悠真を守っていた。しかし、想像を超える黒がそこにあるのだ。悠真は体が侵食され、崩壊していく恐怖を覚えた。五臓六腑が音を立てて軋んでいる。肺がつぶれ息が出来ない。これが、黒の色神の力なのだ。悠真では太刀打ちできない。そう、思った時だった。


――止めぬか。


黒の濁流の中。赤が言ったような気がした。


――このままでは、小猿が死ぬぞ。


黒の濁流を押しのけるように、赤の声が響いたような気がした。まるで、それは遭難者が救いを求める小船のようだった。


――色神の力を収束させるなど、やはり無理じゃ。黒の色神は術士としても長けておる。術を覚えたばかりの小猿が太刀打ちできる相手ではあらぬ。


赤の声に焦りがあった。悠真は苦しみの中、異形の者を見上げた。そこに立つ異形の者は、黒の色神だ。どんな人なのか知らないが、黒の色神は紅と同じだ。悠真は宵の国を知らなければ、黒の色神も知らない。だが、紅と同じだと思うから助けたいと思うのだ。もしかすると、紅と同じように辛い境遇にいるのかもしれない。紅と同じように、必死で生きているのかもしれない。同情のような気持ちが悠真を諦めさせなかった。


――強情な小猿め。このまま死ぬつもりか?


赤の声も悠真にはあまり聞こえなかった。耳鳴りが酷くて、何も聞こえなかったのだ。耳鳴りは次第に、海の潮の音に変わっていった。寄せては帰る波の近くにいるような気がして、悠真は安心した。目が霞み、あまり見えなかった。息が上手く出来なかったが、苦しみはあまり無かった。悠真は夢の中にいるような気がして、心地よくなってきた。


――悠真。


無色の声が悠真を包み込んだ。


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