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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤と異形の者と官府(9)

悠真が赤丸の前に姿を見せると、赤丸は驚いたように目を見開いた。


「悠真……」


赤丸が口にした。悠真が姿を見せると同時に、赤丸が力を取り戻したかのように立ち上がり、消えかけていた赤が再び灯った。

「なぜ、戻ってきた?」

赤丸は肩で息をしながら悠真に言った。赤丸の身体から流れる赤い血が、雨に流され大地へ落ちていく。赤丸は戦っていたのだ。黒の異形の者と、たった一人で戦っていたのだ。悠真は赤丸の姿を見ていると、とても辛い気持ちになった。赤丸だけが戦う理由は無い。

「俺は、逃げたくないんだ。赤い夜の戦いで、俺は何も出来なかった。俺を守るために義藤が傷ついて、それでも俺は何も出来なかったんだ。とても、悔しかった。情けなかった。だから俺は、赤丸を残して逃げたりしない」

赤丸は苛立ちを露にした。それは、優しい赤丸に似合わない。それだけ、赤丸は悠真を逃がそう必死だったのだろう。

「菊は何をやっているんだ!」

赤丸は苛立っていた。感情を露にし、色が乱れた。冷静で知的な赤丸らしからぬ色の乱れだった。

「赤菊には悪いけど、眠ってもらったよ。赤丸、俺は術士だ」

悠真は自らが術士であると赤丸に断言した。守られるだけの存在で無いと、赤丸に死って欲しかったのだ。赤丸は何とも言えない表情をしていた。


 黒の力が膨張した。今にもはじけそうなほど、異形の者の力は膨張し、赤丸の命を喰らおうとしていた。


 膨れ上がった黒い力から身を守るため、赤丸が最後の力を振り絞り、赤い盾を作り出していた。クロウが赤い盾を砕くのは時間の問題だ。

 黒と赤がぶつかり合う。

 黒と赤が乱れる。

 風が巻き上がり、渦巻き、大粒の雨が渦で巻き上げられる。


  悠真は異形の者の力に萎縮した。けれども、赤丸は怖気づくことなく異形の者に立ち向かっていた。そして、赤い盾は砕け、赤丸の身体は容易く飛ばされたのだ。


――小猿、我が力を貸そうぞ。


赤の声が響いたかと思うと、悠真の身体に赤い色が満ち始めた。悠真は近くにある赤に手を伸ばした。犬が背負っていた革鞄の中にあった紅の石が反応し、悠真の前に姿をみせた。赤星の紅の石だ。暴走させるのでなく、悠真は赤を使った。悠真の後ろには赤が立ち、赤が悠真に力を貸しているのだ。異形の者の足は止まった。


――皮肉なことじゃのぉ。


赤がゆっくりと、優雅に口を開いた。

優雅な声が響いた。赤い唇がゆっくりと動き、赤い声を発する。


――わらわは赤丸を死なせたりせぬ。それは、義藤を死なせぬのと同じじゃ。二人して、小猿のために命を捧げようとするのじゃから、わらわの苦悩は尽きぬ。


この場にそぐわない、高貴で優雅な雰囲気が赤から漂っていた。赤い扇子を開き、ヒラヒラと風を起こすその様子、雨に濡れない赤の姿は何よりも高貴に思えた。


――のう、黒。


赤はゆっくりといった。


――のう、黒。聞いておるのか?そこにおるのか?


赤はどこかにいるだろう黒を呼んでいた。

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