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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤と異形の者と官府(8)

 術士は責任と危険を背負う。悠真は身をもって経験している。下村登一の乱の時に、赤の術士たちは危険を賭して戦った。命を賭けて戦った。


 悠真は自分に問うた。

(自分自身はどうだ?)


 力を持つ。自覚は無いが、悠真は無色の力を持つ。無色がそのように言うのだから本当のはずだ。本来なら、無色は悠真の存在を隠すために力を使おうとしない。だから悠真は無力な小猿のままなのだ。だが、今は違う。無色は力を使い、悠真を無力な小猿から術士へと変えてくれる。術士であるなら、悠真も責と危険を負わなくてはならない。責とは何だ?それは、紅のために、火の国のために戦うことだ。危険とは何だ?異形の者と戦う事だ。


 恐怖はそこにある。絡みつくような、ねっとりとした濃厚な黒が悠真の恐怖を掻き立てる。悠真は火の国で生きる民だから、赤に畏怖の念を抱き、黒に死の恐怖を抱く。黒が絡み付いても、悠真は逃げることが出来ない。この悠真の複雑な感情を「意地」という一言で表現できる。悠真には悠真の意地がある。小猿には小猿の意地がある。それだけのことだ。


――紅の役に立つ存在になりたい。


紅の役に立つには、責も危険も負う術士になるしかない。紅の役に立つには、黒に負けぬ意志が必要だ。下手に冷静になるでもなく、無鉄砲に走り出すでもなく、悠真は悠真の意志で先へ進まなくてはならないのだ。


「赤、俺は赤丸のところへいく。俺は無力な小猿だけど、無色と赤が力を貸してくれれば何とかなる。俺は、赤丸のところへいく。赤丸を死なせたくない。それは、俺の意志だから」


悠真は赤に言うと、赤の横を通った。赤は何も言わず、立ち尽くしていた。


――行きなさい。悠真。


無色の声が悠真の背を押し、悠真は足を進めた。


 濃厚な黒が近づいていた。まるで、異形の者から複数の触手が伸びて、悠真に絡みついているようだった。膨れ上がり巨大になった異形の者の姿が、悠真の視界に入りこんできた。赤丸が戦っているのが分かる。赤丸の優しいが強い赤が放たれているからだ。


 赤丸は追い詰められている。赤が翳り、黒に喰われようとしている。見える光景は、傷だらけの赤丸が、雨に打たれながら異形の者の前に立っている。異形の者は赤丸を殺そうとしている。


黒。


赤。


赤は勝てない。赤丸は勝てない。


 気づけば、悠真は、異形の者と赤丸の間に走り出していた。

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