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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤と異形の者と官府(7)

 悠真は森の中を走った。雨でぬかるんだ土を踏み、異形の者と赤丸が戦う場所を目指した。


――何をしに来たのじゃ?


走る悠真の前に、突如、赤が姿を見せた。赤は別世界にるためか、雨に濡れていない。なのに、とても辛そうな表情をしていた。

「赤丸を助けに行くんだ。そこを、どいてくれ」

悠真は赤に言った。高圧的な赤に、そのように強く言ったのは初めてだった。赤は戸惑ったように目を見開き、そして何とも言えない表情を見せた。

――赤丸に任せておけ。赤丸は紅と近しい力を持つ者じゃ。赤丸が敵わぬのなら、紅も敵わぬ。紅が敵わぬのなら、火の国は終わりじゃ。

赤は大きく空を仰いだ。

――黒は何を思っておるのかの?

雨に濡れることの無い赤は、まるで晴天を仰ぐように空を仰いでいた。すると、無色あ反論したのだ。

――確かに、赤丸は紅に近しい力を持つのでしょう。でもね、赤。悠真は、黒の色神クロウと近しい力を持つことが出来るのよ。それが何を意味するのか、あなたになら分かるでしょう?

無色が言ったとき、赤は笑った。

――よもや、主が小猿を差し出そうとはの。

赤の言葉に、無色が強い口調で反論した。

――酷い言いようね。でも、赤が言うようなことを私がしてきたのは事実。でもね、私の世界を混乱させたくないという思いは変わらないのよ。私は色の世界も、人の世も混乱に陥れたくないの。このまま、黒の色神が暴走してみなさい。火の国は滅ぼされるわ。そして、暴走した黒の色神は、宵の国さえ滅ぼすのよ。それでも暴走が止まらなければ、世界が喰われるわ。きっと、黒も同じ不安を覚えている。黒がすがるように信頼している男が、国を滅ぼすなんて。宵の国を統一した実力者が、自らの手で自らの国を滅ぼすなんて。私はそんなこと、して欲しくない。

無色の声は強い。

――赤、力を貸して頂戴。今度は、私が赤に頼むわ。力を貸して頂戴。

赤は優美な目で悠真を見た。

――小猿に覚悟はあるのかえ?

赤の赤い目が、細くなった。空気に赤が満たされていく。

――小猿、よく聞くのじゃ。わらわは、誰も死なせとうない。紅も、赤丸も、赤星も、死なせとうない。わらわは、人の命は尊いものじゃと思っておる。じゃが、小猿の命も同じほど尊きものじゃ。小猿が死なぬのなら、わらわは小猿の力を欲するじゃろう。じゃが、小猿が助かる保障はない。わらわは、そのような哲学的思考はしたくないのじゃ。

赤の色が、深い優しさを持った。これほどまでに、赤が温かい色だと、悠真は知らなかった。そして、不思議なことは、赤が悠真の意思を尋ねないことだ。悠真はそれほど勇気のある者ではない。今は無鉄砲に走り出すほどの勢いもない。下手に冷静で、情けないほど臆病者なのだ。だが、今の悠真に分かることがある。それは、悠真の中に一本引かれた線に背く行為だということだ。祖父や惣次の教えに背く行為だということだ。


(力を持つ者は、地位と名誉を手に入れる代わりに、責任と危険を背負うものじゃ)


生前、惣次は術士に憧れる悠真に、そのように諭した。術士が負うべき責任を教え、術士の真の姿を伝えていたのだ。当時の悠真は、惣次の言葉の意味の一割も理解できなかったが、今なら分かる。力のある者は危険を背負う。野江も、都南も、佐久も、義藤も、赤丸も、力を持つものは責と危険を背負っている。



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