表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
225/785

赤と異形の者と官府(3)

 異形の者と赤丸は対峙していた。赤丸は異形の者を刀で受け止め、防いでいた。悠真は何も出来ず、立ち尽くしていた。そんな悠真を現実に引き戻したのは、赤丸の叫びだった。

「悠真、しっかりしろ!長くは持たないぞ!菊と一緒に彼らを連れて逃げるんだ!」

赤丸の赤く放たれ、悠真は現実に引き戻された。


今、するべきことは何なのか。


悠真は足に力を込めた。そして駆け出し、赤菊が犬を運ぶのに手を貸した。


 その中で、突如、異形の者は赤菊に向けて駆け出したのだ。赤丸が作り出した赤い盾を砕き、その爪は赤菊と、赤菊が運ぼうとしている犬に迫った。

 悠真は何も出来なかった。出来ずに、身を固めた。失念していたが、赤菊も赤影の一員だ。赤菊は瞬時に異形の者を防いだ。彼女も赤影。術士として優れていることは事実だ。


 異形の者は苦し紛れに爪をふるい、その爪は風を巻き起こし犬の身体を弾き飛ばした。赤菊と悠真は踏みとどまれたが、意識の無い犬は踏みとどまれない。


「あんたの相手は俺だ!」


赤丸が刀を振り上げ、異形の者と赤菊の間に割り込んだ。犬の身体は離れたところに転がっている。


「行け!」


赤丸は叫んだ。だが、犬の身体は離れたところにある。この場に犬を残すことは出来ない。犬を死なせることは出来ない。術士の男と共に戦い、傷ついた犬を残すことなんて出来ない。悠真は犬に向かって足を進めようとした。


――行け。


赤丸は当然のように言った。彼は残るつもりなのだ。この、強大な異形の者とたった一人で戦うつもりなのだ。


「行くぞ、赤菊!」


一つ、聞きなれない声が響いた。声に振り返ると、そこには熊が立っていた。熊は身を翻し、声に呼ばれるように赤菊が悠真の手を掴むと走り始めた。


「どうが、ご無事で」


囁くように、祈るように、赤菊の声が悠真の耳元で響いた。赤菊が祈るのは、赤丸の無事だ。赤丸の仲間の赤菊でさえ、異形の者との戦いが苦戦を強いられるだろうことを知っている。


 悠真と赤菊は逃げた。熊を先頭に逃げて、川に沿って逃げて、どこにいるのか皆目検討もつかなかった。ただ、背に残るのは赤丸と犬を見捨てきたという罪悪感だ。しばらく進んで、熊は足を止めた。赤菊は、何も言わず熊の背から薬師葉乃を下ろしていた。悠真は、そんな赤菊を何も言わずに手伝った。

「気にするな、赤菊」

その声は、「行くぞ、赤菊」と赤菊を叱咤した声だった。その声は熊の声だったのだ。なぜ、熊が言葉を話すのか、悠真は信じられなかったが、あまり深く考えることが出来なかった。その余裕が無かったのだ。悠真は酷く疲れていた。異形の者の度重なる襲撃に疲れていた。同時に、赤丸を見捨ててきた罪から逃げるために、無意識のうちに思考を止めていたのだ。確かなことは、この熊は、意志を持ち、悠真たちを助けたこと。――そして、悠真は思い出した、可那の馬がやたらと賢かったことを、犬がやたらと賢かったことを。悠真は熊を見た。熊は毛むくじゃらの顔を、ゆっくりと赤菊に摺り寄せていた。人を食い殺しそうな熊が、人に懐いている。意志を持ち、手助けをしている。言葉を話す。悠真は熊の色を見た。熊の色は、赤と燈が渦を巻いて交じり合った色だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ