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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
223/785

赤と異形の者と官府(1)

 悠真は瓦礫の中に立っていた。屋根が落ち、大粒の雨が悠真の身体に降り注いだ。瓦礫と同時に落ちてきた赤丸は、悠真たちに逃げろと言った。


 当然だ。


 そこに立つ、異形の者。


 異形の者は危険な存在だ。命を喰い、一日たたない限り消える事がない。しかし、悠真が恐怖を覚えるのは、異形の者の色が濃いからだ。黒がねっとりと絡み、息が詰まるような感覚だった。間違いなく、そこには黒がいた。

 赤丸が薬師葉乃を攻撃した。それはまるで、赤丸が自らの姿を葉乃に見せないようにしたようだった。赤丸は義藤と同じ顔だ。もしかすると、そこまで考えていたのかもしれない。悠真に赤丸の真意は分からないが、濃厚な黒を前に、怖気づくことも逃げることもせず、躊躇いもなく異形の者の前に立ち続ける赤丸の背中は、悠真が今まで見た誰よりも大きく感じた。下村登一の乱の時は、野江や都南、佐久らに隠されていた。義藤だと思っていたから、悠真は赤丸のことを知らなかった。今、分かる。赤丸がどれほど強いのか。赤丸が、どれほどの覚悟を背負っているのか。その、背中が語っていた。悠真は父の顔を知らない。だから、父の姿を見て、何かを学ぶことはない。だが、赤丸を見て分かるのだ。彼がどれほど強く、どれほどの覚悟の中で生きているのか。赤丸の一色の優しさが、強さが改めて分かるのだ。

 悠真は動けない。ただ、赤丸を見ることしか出来なかった。赤丸は戦った。

 赤丸は戦った。


 悠真は赤丸の強さを知り、赤丸の覚悟を知り、その背中を見るしか出来なかった。戸惑う赤菊を、赤丸は叱責した。そして、赤星を叱責した。悠真は、赤星が何者なのか知らない。赤丸に尋ねる機会が無かったからだ。ただ、赤星が赤影の一員であるとしても、赤丸の言葉は強かった。動くように、戦うように、赤星を叱責したのだ。

 悠真は戦う赤丸を見ることしか出来なかった。赤丸は優しい色だ。そして、優しさの中に苛烈な強さを持っている。

(赤丸……)

悠真は心の中で赤丸の名を呼んだ。確かなことは、義藤と赤丸は似ていないということだ。義藤は努力を惜しまぬ天才だ。そして、赤丸は神に愛された存在だ。努力を必要としない天才だ。術士としても、剣士としても素人の悠真でもそれは分かる。異形の者も、赤丸を執拗に狙っていた。


――小猿にも分かるじゃろ?


優美な声が悠真の脳裏に響いた。濃厚な赤い空気が満ち始める。振り返らなくても、姿が見えなくても、悠真は誰が姿を見せたのか分かった。


(赤)


赤い色を司る者。紅に赤の色神としての力を与えた者。赤だ。久しく姿を見せていなかった赤が、この場で姿を見せたことが悠真は信じられなかった。


――赤丸は死なぬ。赤丸は負けぬ。


そっと、悠真の肩に色白の手が残せられた。肩を見ると、赤く塗られた爪が見えた。

「なんで、今頃」

悠真は赤に言った。小さな声であっても、赤には聞こえている。


 なぜ今なのか。悠真には理解できなかった。

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