黒の監視(22)
無色の小猿「悠真」は今、赤に染まっている。それを、黒に染め直すことで、クロウをイザベラから引き離そうとしているのだ。
――そんなこと、無色がすると思うの?それは、赤だから無色も力を貸すんでしょ。赤は、あの時、無色を庇ったから。
黒は首を横に振っていた。
――自分で頼め。無色にな。
赤が言い、黒は俯いた。両手でバルーンスカートを握り締め、黒いブーツで地面を踏みしめ、しばらく黙した後に強く言い放った。
――無色、助けてちょうだい!あたしのクロウを、助けてちょうだい!
黒の目は地面を見たままだ。気位の高い黒が、色の世界の覇権を握ろうとしている黒が、覇権を握るために無色を狙っていた黒が、無色に助けを求めたのだ。もしかしたら、この一言で、黒は色の世界の覇権を目指すレースから脱落してしまったのかもしれない。クロウが、黒の足を引っ張ったのかもしれない。負けじと、クロウは言い放った。
――頼るからって、あたしは無色を諦めたわけじゃないから。色の世界で、黒を醜い色にしたりしない。死の色にしたりしない。それが、あたしの願いなんだから。宵の国は統一された。きっと、黒が死の色なんてイメージ、消えるんだから。
クロウは跳ねるボールのように、弾む声で言い放った。すると、澄んだ声が響いた。
――そうでなくちゃ、黒らしくないわ。でも、私は染まったりしない。無色は無色であるからこそ、美しくあり続けられるの。色の世界の絶妙な世界のバランスを崩したりしない。でもね、私はあなたに力を貸すわ。悠真が、それを望んでいるから。
それが無色の声なのだと、理解することは出来る。冷たい川の水のような、燃え上がる炎のような、吹き抜ける風のような、広大な大地のような、荒れ狂う海のような、吼える獣のような、固い金属のような、何とも表現の難しい色。全ての色の要素を持つ。それが無色なのだ。
――あたしは、無色を諦めたりしてないから!
黒は泣きながら叫んだ。目に大粒の涙を浮かべながら、それでも気の強さは変わらない。
――分かっているわ。だから、今は諦めて、また私を狙いにいなさい。それで良いでしょう?もう、私は逃げたりしないわ。悠真とともにあり続ける。
無色の声が柔らかく諭した。黒は泣きながら、悠真に近づいた。そして、悠真の肩に手を乗せた。
――クロウを、助けてちょうだい。あたしのせいなの。あたしがクロウに甘えすぎたの。
黒がそんな言葉を発することが、クロウには信じられなかった。気位の高い黒らしくない。それほど、クロウが黒を追い詰めてしまったのだ。
「黒」
クロウは言った。その声は、イザベラのギュルルルという泣き声にでしかなかった。