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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の監視(16)

 クロウの目の前には赤丸がいる。少し離れたところで、動けない犬が倒れている。もしかすると、犬も赤星が操っていたのかもしれない。クロウはそう思った。もしかすると、犬も赤星が操る一端なのかもしれない。「赤」と名に持つ者は、赤丸、赤菊、赤星と面白いものたちばかりだ。クロウは感心した。

 他の者には逃げられたが、クロウの目の前には赤丸がいる。それだけでも十分だ。そもそも、クロウが最も興味を持っているのは、赤丸なのだから。火の国にいて、死の臭いを持つ者。宵の国でも、生きていける者だ。


「ちょうどいい。狙いは俺か?」


赤丸は雨に濡れて雫の落ちる刀を振るい、水滴を落とした。しかし、すぐに雨が刀を濡らす。無駄な行為だが、一つ一つの動作が赤丸の剣士としての腕を示していた。紅の石を使う力も中々のものだ。


「変な気分だな。俺は誰かを守って死ぬことがあっても、自分が狙われることがあるなんて、露にも思っていなかったからな」


赤丸はクロウに言った。


「俺を殺すつもりなら、それでもいい。だが、仲間には手を出させない。黒が仲間に手を出すのなら、俺があんたを殺す」


品の良い赤丸が、どこか別人のように思えた。赤丸は、人を守るために生きているのだ。誰かを守るために強くなったのだ。蛇にもなる。悪にもなる。人も殺す。罪も負う。赤丸が守る者――それは紅だ。


 クロウの心に、宵の国で待つヴァネッサの姿が浮かんだ。クロウも、ヴァネッサのために強さを求めた。ヴァネッサのために、宵の国を統一した。ヴァネッサの命を狙う者を殺した。ヴァネッサが宵の国で生きるから、宵の国を豊かな国にしようと思った。黒が願うから、黒の色の世界での覇権を握らせようと思った。ヴァネッサのために犠牲になるのではない。ヴァネッサが傷つくと、己が傷つくから、クロウは戦うのだ。殺すのだ。誰かのためとかいうエゴイズムではなく、クロウは自らのためにヴァネッサを守るのだ。ヴァネッサがいない世界は、色を失ってしまうから。


――そうか。


クロウは思った。赤丸はどこか自分と似ている。クロウは、どこかでそのように思っていたのだ。だから、赤丸はもっと強くなる。クロウの近くで、その力を、クロウのために使ってもらえれば、どれほど心強いだろうか。


 クロウは赤丸を狙った。赤丸は、クロウの邪魔をした。クロウの策を無駄にし、監視を見抜いた。クロウが赤丸に抱く印象は複雑だ。プライドを傷つけられたことによる、殺したいほどの憎さ。赤丸の才を認め、近くに置きたいという希望。クロウ自身と似ているという親近感。


――赤丸をどうしたのだろうか。


クロウは己に問うた。


赤丸を殺したいのか?

捕らえたいのか?

生かしたいのか?


 結論に困ったクロウは、賭けに出た。生かすも殺すも、赤丸に託せば良い。殺そうとして、赤丸が死ねばそれまでのこと。途中でクロウの気持ちが変われば、赤丸の命が繋がる。全ては赤丸次第。そうしてしまえば良い。

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