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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の監視(15)

 逃げようとする赤丸以外の者たち。クロウは逃がしたりしない。いや、逃がしても構わなかったが、逃がさず赤丸を困らせた方が楽しいことのように思えたのだ。この辺り、クロウはサディストなのかもしれない。そもそも、この火の国にそのような嗜好が知られているのか、クロウには分からないが。


 少なくとも、背後に守るべき者を抱えた方が、赤丸が力を発揮するように思えたのだ。


 クロウは赤丸の作り出す盾を打ち砕いた。クロウが本気になれば、この程度は容易い。打ち砕かれた赤の破片の間を潜り抜け、赤丸の横を駆け抜け、クロウは赤菊を狙った。砕けた赤の盾の破片は、硝子の破片のようで、砕けた赤は美しく感じた。美しさにい心奪われる時間は無い。クロウは鋭い牙を赤菊に向け、命丸ごと喰らってやろうと思ったのだ。


 クロウは打ち砕いた赤の盾の先にいる赤菊に牙を向けた。だが、赤菊も術士だ。紅の石での反撃がクロウを襲った。不意打ちの攻撃に、クロウの鼻先が崩れ、痛みがクロウを襲った。本来ならば、イザベラの身体であるから、クロウが痛みを感じることは無いのだが、確かにクロウの身体を痛みが襲った。それほどまでに、クロウとイザベラはシンクロしていたのだ。

 鼻先が崩れても、異形の者であるイザベラに死はない。クロウに死はない。クロウは悔し紛れに爪を振るい、前足が作りだした風は強風となり犬の身体を弾き飛ばした。犬の身体が、不出来な縫いぐるみのように空を舞い、崩れた瓦礫の中に落ちた。赤菊が踏みとどまれたのは、彼女に意識があるからだ。

「あんたの相手は俺だ!」

突如、クロウの視界に赤丸が割り込んできた。赤丸は刀を振り上げクロウの首を狙った。素早く、躊躇いの無い身のこなしだ。クロウが何を思う間もなく、赤丸は紅の石の力も使った。イザベラは不死の異形だから、首を狙われたからと言って怯える必要はない。逃げる必要もない。しかし、今のイザベラはクロウだ。クロウは生き物としての本能で、思わず赤丸の攻撃を避け、赤菊との間に割り込まれてしまったのだ。


「行け!」


叫び声は赤丸のもの。しかし、赤菊も悠真も動けていない。大切な仲間を異形の者の前に残し、逃げれる者がいるだろうか。自分の判断でそれが出来る者がいれば、火の国はもっと強い国のはずだ。逃げろ、と言えるのは、犠牲になる者の台詞。つまり、赤丸はここで犠牲になるつもりなのだ。


「行くぞ、赤菊!」


再び声が響いた。それは、赤丸のものではない。重厚なその声は、確かに熊が発した声だ。いや、熊でない。燈の石を使い、熊を操る術士が発した言葉だ。


――赤星。


燈の石は獣と心を交わす。しかし、これほどまでに使いこなせるものが、燈の色神を持つ国以外でいるとは思えなかった。少なくとも、火の国にいることに、クロウは驚いた。赤星とは、燈の石の使い手だ。

 クロウが感心している間に、赤菊は悠真の手を引き走り始めた。熊も方向を変え、逃げ始めた。強い雨の中、クロウは小さく息を吐いた。逃がした獲物は大きい。赤星とは、面白い術士だ。クロウは誰が赤星なのか、知らないのだが。

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