表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
212/785

黒の監視(14)

 クロウは熊の登場に思わず息を呑んだが、気にするなと己に言い聞かせた。ただの熊だ。異形の者、イザベラの前では無力に等しい。熊の登場に驚く必要もない。


――燈の石。


 それが答えだ。



 燈の石の力を使えば、獣を思うがままに使うことなど容易い。おそらく、赤丸が叫んだ「赤星」が、燈の石の使い手なのだ。

 クロウにとっては、オレンジと言ったほうが親しみがある。


 熊はイザベラに怯えることなく、倒れている術士の男の身体の下に頭を突っ込んだ。熊が連れて逃げようとしているのだ。興味ない。クロウには、術士の男など興味ない。連れて行くなら、連れて行け。クロウはそう思った。


 赤丸はクロウが他の仲間に手を出さないことを感じたのか、低く笑った。

「黒、あんたの相手は俺がするよ」

赤丸は言った。

 愚かなことだ。確かに、赤丸は優れた術士だ。宵の国の小国にいたら、赤丸を有した国は他の小国を一つや二つ喰うかもしれない。だが、所詮その程度の力。他の野江や都南、佐久や義藤を有した国も有利だろう。けれども、クロウが赤丸に興味を持つ理由。それは、赤丸が人殺しの目をしているからだ。

 赤丸が低く笑うように、クロウも低く笑った。赤丸の背後では、熊が術士の男を背負い、奇妙な姿をした薬師を背に乗せていた。

そして、赤菊が犬を引きずるように動かしていた。


 待ってやっても良いが……


クロウはイザベラの足を進めた。優しいが強い赤丸が、仲間を逃がす間、待ってやっても良かったが、クロウは赤丸のために良い人になるつもりは無かった。可哀想だが、赤丸に仲間を全員逃がさせるつもりは無い。


 さあ、黒と赤のショーの始まりだ。


クロウは笑みを浮かべて、イザベラの足を進めた。いや、イザベラと完全にシンクロしたクロウにとって、イザベラの身体は己の身体だ。最早、自らの足を進めるのと変わらない。クロウは爪を振り上げた。鋭い爪は、直撃すれば一撃で赤丸の命を奪う。


 赤丸は名工が鍛えたであろう刀で、クロウの爪を受け止めた。受けとめ、同時に紅の石を発動させた。

「逃げろ!」

赤丸は叫んだ。熊の背には、術士の男と薬師が乗せられている。赤菊が犬の身体を引きずり、無色の小猿は未だに戸惑っている。

「悠真!しっかりしろ!長くは持たないぞ!菊と一緒に、彼らを連れて逃げるんだ」

赤丸の声は赤く広がり、竦む無色の小猿に力を与えていく。だから、無色の小猿「悠真」は息を吹き返したように目に力が入り始めた。

 クロウは力を込め、紅の石の力で作り出された盾を打ち破った。


 簡単に逃がしたりしない。


 赤丸は再びクロウの足を踏みとどめるために力を放った。赤い盾の向こうでは、熊が方向を変えていた。赤菊は必死に犬を引っ張り、それを悠真が手伝っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ