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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の監視(9)

 紅城の中では、赤の術士たちが動き始めた。クロウは一人赤の術士たちの動きを見た。そして、佐久と都南たちが別行動を始めたので、佐久と都南らそれぞれに監視をつけた。動かす異形の者の数が多く、クロウの眼前で様々な風景が流れていた。耳には、雑音のような会話の音がとめどなく流れている。多くの情報に、クロウは頭痛を覚えてこめかみを押さえた。宵の国を統一する際、クロウはこのようにして諜報活動を行っていた。しかし、これほどまでの数の黒の石を同時に使うことはあまりない。多くの映像と音の中に、クロウは引き込まれてしまいそうだった。ざわめき、乱れる色、ゆれる映像。クロウの世界が回り始めた。


――クロウ、クロウ。


黒に呼ばれ、クロウを引き込もうとした情報の流れは止まった。


――大丈夫なの?


黒がクロウの背をさすっていた。気づけば、クロウの額から汗が流れていた。背からも汗が流れている。


――クロウ、大丈夫なの?


再び黒に尋ねられ、クロウは大きく息を吐いた。心臓が強く脈打っている。

「大丈夫だよ、黒」

クロウは背中をさする黒の手を離し、立ち上がった。床が歪んでいるように感じるのは、クロウの三半規管が歪んでいるからだ。

 クロウは窓から外を見た。官府の内部は複雑に入り組んでいる。まるで、細かな木を組み合わせて作る芸術のようだった。建築様式は、宵の国と異なる。石作りの宵の国の黒城には無いものがある。


――無理、しすぎないでよ。


黒が立つクロウの背を抱きしめた。クロウは分かっていた。多くの黒の石を使い集めた情報を、一度に処理することは不可能だ。しかし、するしかないのだ。火の国の術士の動向を探らなくては、確実に火の国を喰うことは出来ない。こうやって、するしか無いのだ。

「大丈夫、大丈夫だよ。黒」

クロウは言うと、ゆっくりと目を閉じた。再び、映像と雑音の嵐の中に身を浸すのだ。火の国を喰うのは、宵の国の小国を喰うのとは異なる。


 映像と音の雑音の嵐の中で、クロウは一つ一つの音に集中した。野江と都南が馬を厩から出していた。美しい毛並みの、立派に調教された馬だ。軍馬としては申し分ない。二人は市街へと馬を走らせ始めた。命じられたのではなく、彼らの意志で動いているからだ。彼らが探しているのは、クロウだ。黒の痕跡を探し、クロウにたどり着こうとしている。

 紅は部下の管理が不十分だ。なぜ、紅の命令が無いのに、陽緋らは動き始めたのだ?部下の管理が不十分なのだ。命令に背けば粛清を、命令以外の行動をすれば厳罰を与えなくてはならない。そうしなければ、国はまとまらない。だから、火の国は官府に占拠されているのだ。術士であるのに、紅の命令に忠実に従わない。なぜ、紅がそのような行動を許しているのか、クロウには理解しがたかった。


 しかし、クロウにとって野江と都南の行動は厄介なものだ。彼ら一人ひとりが優れた術士であるからこそ、彼らの行動を監視しなくてはならない。別行動をとられると、それだけ監視を行うのが大変になる。今以上に苦しい状況に追い込まれるのだ。

 幸運にも、彼ら赤の術士が、紅の命令を待たずして勝手に動き始めたことは、火の国を守ることとなる。こうやって、クロウを苦しめているのだから。だが、負けはしない。負けたりしない。クロウは思考を集中させた。

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