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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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黒の監視(8)

 困惑する紅城の中で、遠次がゆっくりと口を開いた。

「なぜ、紅は義藤を選んだのだと思う?なぜ、紅は秋幸を選んだのだと思う?」

遠次の言葉に答えたのは、都南だった。部屋の隅に座り、刀の柄から手を離そうとはしない。

「そりゃあ、義藤が最も身近だからだろ。紅は義藤に心を開いている。当然だ。それに、秋幸は官府の中に詳しい。だから、秋幸を連れて行く。そんなところだろ」

都南の声は、苛立ちを隠しきれていない。そのような都南の怒りを鎮めるように、遠次は言った。

「違うと思うぞ。野江、お前の役職は何だ?」

遠次が言い、野江は答えた。いつの間にか、野江は遠次から少し離れたところに姿勢を正して座っている。

「陽緋です」

野江は短く答え、遠次は笑った。

「陽緋は術士を統括する者。この状況で、野江の行うべきことは何だ?意固地になることか?紅を守るために、紅を追いかけまわすことか?――違うだろ。陽緋として、野江のするべきことは、火の国の術士を統括することだ。火の国が黒に対抗する唯一の手段。それが紅の石を使うことだ。紅の石を使うことが出来る術士は、どこに何人派遣している?防波堤の薄いところは無いのか?都に残る術士はどれほどの力を持つ?官府と対峙するには、術士の力を見せなくてはならない。野江、今、するべきことは何だ?陽緋として、術士を動かせ」

遠次の言葉は低く響く。優れた才能を持つ若い者を導く力を持つ。それが遠次だ。そして遠次は続けた。

「都南、お前は何だ?」

都南は仏頂面で答えた。

「朱将だ」

野江に言ったように遠次は都南に言った。

「朱将は朱軍を率いる者だ。都南のするべきことは何だ?そうやって、部屋の隅で拗ねて刀を握り締めて冷静さを保つことか?――違うだろ。するべきことは、朱軍を動かすことだ。再び異形の者が暴れることが無いように、朱軍を動かせ」

都南は遠次の言葉に俯いていた。そして遠次は続けた。

「佐久、お前は……」

言いかけたとき、佐久は笑った。

「分かっているよ、遠爺。僕は探るよ。異国をね。僕にしか出来ないだろうからね」

佐久は笑っていた。クロウが見る限り、佐久は最もつかみ所の無い男だった。満足そうに、遠次は言った。

「紅は、お前たちだから残したんだ。紅が好きにしているのなら、探せ。黒を、異国を。探してお前たちしか出来ないことをするんだ。紅もそれを期待しているだろうな」

遠次の言葉に都南が反論した。

「だが、紅は俺たちに黒を探せとは言っていない」

都南は紅に忠実なようだ。すると、そんな都南を遠次が一喝した。

「いつから、お前たちは大人しい犬になったのだ?我らは紅に仕える身じゃが、紅の命令に忠実に従うからくりでない――頭を使え。少なくとも、こんなところで座っているよりは良いじゃろう」

遠次が言うと、都南はゆっくりと立ち上がった。

「分かった。黒の痕跡を探ってみよう」

次いで、野江が立ち上がった。

「あたくしも都南と一緒に行くわ。何が起こるか分からない。だったら、術士が一緒にいるべきでしょ。都南」

野江も立ち上がった。佐久は手紙を折りたたみ、懐に入れると言った。

「僕はここに残るよ。火の国に来ているのは、宵の国だけじゃない。きっと、流の国も来ている。僕は、確信しているんだ。流の国が最強の術士を送り込んでくるとね。流の国はそういう国だから」

つかみ所の無い佐久は、流の国に対して特別な認識を持っているようであった。佐久は読めない男だ。

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