黒の監視(6)
クロウが見つけたのは、「ソルト」だった。戦乱に明け暮れて、異国との交流をあまり持たない宵の国のクロウでも知っている。命を救う石。黒と対照的な色。黒と対照的な力。宵の国と対照的な国。雪の国の持つ、白の色神が火の国へ来ているのだ。
クロウには分かる。ソルトが放つ、冷たい白色が。雪のように冷たく、時に美しく、時に残酷な色が。ソルトは、紅城の外にいた。紅城を見て、これからの事態を静観するつもりらしい。少しも動こうとしていないのが、その証拠だ。無色を追う様子もない。
「一足遅かったな。そこで見ていろ、ソルト。黒が火の国を喰う様子をな」
クロウはそこにいるソルトに言った。白い髪。ソルトは大柄な男に抱きかかえられていた。自らの足で歩むことを忘れてしまったお嬢様のように見えた。火の国の着物をまとっていても、ソルトが放つ白は隠すことは出来ない。
ソルトが何を思って火の国に足を運んだのか、クロウに知る由もない。しかし、ソルトが来たということは、クロウにとって厄介でしかない。
――白の奴、何しに来たって言うのよ。
黒が地団駄を踏んでいた。黒の目には、ソルトに色神としての力を与えた白が見えているに違いない。
クロウはじっとソルトを見た。か弱き少女に、大きな力があるとは思えなかった。しかし、クロウは知っている。偶然にも、今のソルトはクロウよりも色神としての経験が浅い。クロウは先代のソルトを見たことがあるのだ。今のソルトは、幼い。幼く、小さい少女だ。大きな力を与えているのは、白だ。白がいなければ、ただの少女に過ぎない。もちろん、それは紅やクロウも同様なのだが……。
「黒、あまり騒ぐな。じっとしていろ」
クロウはソルトを見た。そして、黒の石を取り出すと、二つの黒の石を思い切り打ちつけ砕いた。砕いて小さくなった黒の石を、クロウは窓の外に投げた。飛び出した異形の者の数は無数だ。紅の動き、ソルトの動き、無色の動き、赤丸の動き、紅城に残る術士の動き、クロウは監視するのだ。この目で見て、最適の時に動き始めるのだ。すべては宵の国と、宵の国で待つヴァネッサのため。宵の国を消したりしない。いずれ、流の国も姿を見せるだろう。だからこそ、クロウは油断したりしない。
「安心しろ、黒。黒が最も優れた色だと、最も素晴らしい色だと、このクロウが証明してみせる」
クロウは、黒の頭を撫でた。クロウの目には、解き放った異形の者が見た景色が次々と写った。めまぐるしく変わる景色の情報をクロウは必死で処理した。火の国にクロウの目は解き放たれた。