第25話 真夜中の広場
日中は人であふれていた王都の通りも、真夜中に差し掛かった今では、通る者はまずいない。
俺の服装は、煤の色が染みついており、黒そのものと言っても構わないものだ。
昼、陽射しの下では目立つかもしれないが、こんな夜の闇の中では、これ以上のものはない。
懸念があるとすれば、夜空に浮かぶ月が半月で、多少の光が闇に紛れ込んでしまうぐらいだ。
以前の俺なら、人並みに、暗がりにはあまり良い心持ちはしなかっただろうが、今はそこに安らぎのようなものを感じてしまう。
体だけではなく、心も人ではなくなったのかもしれない。
「はは!」
そう考えると自然に笑いが込み上げてくる。
そう‥‥全ては復讐する為に今がある。必要なのは獣の心であって、人の心ではない。
大通りは避けて、路地から物陰に沿って走っていく。
酒を飲み過ぎて足取りのおぼつかない何人かとすれ違ったが、陰のように突き進む俺には気が付いていないだろう。
=ふん、醜いものだな、酔いどれは。あんな者どもの為に犠牲になっていたとは=
宙を飛んでいるウィニフレッドはすれ違いざまに蔑むような視線を向ける。
亡者の姿は誰の目にも止まらない。声も届きはしない。
「‥‥そうだな」
人々の為に‥‥という言葉は偽善に満ちている。
この世界は誰かの犠牲の上に成り立っている。そして犠牲になるのは、真の意味での善良な人間‥‥リナのような者だ。
砕けて無くなってしまえ!
こんな醜悪な世界は!
「‥‥‥‥」
気が昂って、思わず口に出してしまいそうな所を、心の中だけに留める。
広場は大通りに繋がっており、路地から出る必要がある。
俺は周囲を見渡してから足を踏み出す。
石畳の大きな円形状の広場で、ここを中心に四方に大通りが伸びている。
北側には、アステリア教の大聖堂が正面を向けて建っている。尖塔の上に星の飾りがやけに目立っている。
奥に見えるのは丘の上に建てられた王宮だ。ここから見上げると、王宮と大聖堂が重なって見えるのは、王権と教会が並び立っていることを、人々に誇示する為なのか、それとも俺が皮肉な目で見ているせいなのか。
広場の中央に大きな噴水がある。その真ん中にある女神像が掲げる壺から水が噴き出している。
その水の流れる音だけが、この静寂な世界の全てを満たしていた。
「‥‥‥‥」
ここには教会の夜回りが通ることもある。
そんなに時間はかけられない。
足元に四つの石の穴が、石畳に埋め込まれたまま残っている。
そこは絞首台の柱を立てるための穴だ。




