Ep.3 遊漫
「遊びに行こうよ」
出会ってから数週間になる神楽舞衣は、外出許可が出る前日の晩、私にそう持ちかけた。
「外出許可、明日でしょ? 行こうよ」
「・・・・・・明日は、百恵が誘ってくれてるから」
やんわりと断った。そうでなくとも、こんなやつと外出するなんて御免だ。
「良いでしょー? 百恵ちゃんにはもう話を通してあるし」
え? いつの間に、気がつかなかった。毎日会ってるのに、そんな態度おくびにも出さないで。
「じゃ、明日の朝一番にこの部屋に来るから」
「いやいや、受付のところで待っててよ」
「んー? うーん」
返事に歯切れがない。本当にわかってるだろうか。
すると舞衣は、ぐーっと窓から身を乗り出して、下の駐車場を覗き込んでいると、何を思ったのか・・・・・・
「よっと!」
「はっ?」
神楽舞衣が、病室の窓から飛び出した。
「な、なにしてんだ!」
声を荒げ、ベッドを荒らしながら立ち上がり、たまらず駐車場を覗き込むと、
「 !? 」
神楽舞衣の、彼女の姿が無くなっていた。
◇ ◇ ◇
「おはよう」
翌朝、本当にいた。目を覚ますと居たのだ。
「はぁ。準備するから、一回出ていって」
「あー、ちょっと無理かなー、面倒だし。体見せてよ、カラダ〜」
「キモ、変態」
良い加減にしてくれ。ただでさえこっちは振り回されて困ってるんだ。これ以上は堪らない。
「はぁ……」
これ以上は断固拒否するつもりでいたのだが、結局押し負けてしまった。何で私はこうなんだろうか。
「おひさ〜、百恵ちゃん」
「久しぶり。あれ、目が青くなってる」
「そーなの。あの色何かと目立つじゃん。だからカラコンで誤魔化さないとねー」
手続きをしながら、二人の会話を横目で見ている。アイツと私は同じ目の色だ。私も目立つか…大丈夫だろう。私は舞衣みたくキラキラしてないし。
「で、今日はどこ行くの?」
私が百恵に尋ねると、彼女は、
「今日はここに行きまーす!」
と言って、スマホの画面を見せてきた。
「遊園地、か」
私は試しにその単語を口にしてみた。
「へぇ! その遊園地、意外と病院から近いんだね」
「うん。電車で10分とかその辺」
病院の受付手続きカウンターを後にしながら歩き始める。
「じゃ、早速行こう!」
「おぉー!!」
そうしてズンズンと駅へ向かって歩く二人を眺めながら、
「いつの間に仲良くなったのか・・・・・・」
私も駅に向かって歩き出した。
でも、今の私には知る由もなかった。今回が、元気な体で遊びに行くことのできる最後の外出許可であることを。
私と彼女、神楽麻依と神楽舞衣の関係を、さらに狂わせることを。
◇ ◇ ◇
私たち三人は、観覧車に乗り景色を楽しんでいた。
「本当はジェットコースターとかもあるんだけど…」
乗り込んですぐ、昇っていくゴンドラの中で、百恵がそんなことを呟いた。
「ごめんね、絶叫系は心臓に負荷がかかるから」
コーヒーカップのようなものでも、私は体に負荷のかかるアトラクションに乗ることができない。せっかく連れてきてもらっているのに、少々申し訳が立たない。
「いいの、いいの。私も絶叫系そんなに得意じゃないから」
少し重くなりかけ、しんみりとし出した空気を切り裂くように、舞衣が口を開く。
「あ、あれ。病院見えるよ」
「別に、わざわざ見たくもないでしょ」
「・・・・・・外から見る病院は、新鮮かも」
私は今、外に出ているんだと、改めて実感する。
ゴンドラがてっぺんに差し掛かろうとしていた時、百恵が声をかけた。景色を眺めていた私と舞衣の肩を叩く。
「写真撮ろうよ、写真!」
「うん」
「イイね〜」
スマホを掲げる百恵を中心に寄って座席に座る。
「笑って〜、いくよ〜」
「ハイ、チーズ!」 パシャッ




