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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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決別と対峙

「おい、セラ――久しぶりだな」


ギルドの掲示板前。今日の仕事を探していたセラに、聞き覚えのある声がかかった。

振り向けば、懐かしくも最も会いたくなかった男――ダリオが、あの頃と変わらない不遜な笑みで立っていた。


背中に大剣を背負い、気取った身振りでセラに歩み寄ってくる。


「戻ってこいよ、俺のパーティに。俺たち、これから上に行くんだ。お前がいれば確実だ」


セラの瞳がわずかに揺れるも、すぐに凛とした声で返した。


「ごめんなさい。私には今のパーティがあります。だから戻るつもりはありません」


だが、ダリオはその言葉を聞いていないかのように、ふんぞり返って笑った。


「ははっ、何言ってんだ。俺がどれだけ優れてるか、お前も分かってるだろ? お前も俺と一緒にいれば、上に行けるって分かってるはずだ。いつまでそんな底辺と組んでんだよ」


周囲にいたギルドの冒険者たちがざわつき始める。ダリオはラグスティアでも知れ渡った存在。

9級だった頃から7級冒険者と互角に戦える実力を持つと噂されていたからだ。


「この前も7級とタイマンで引き分けだったんだろ?」


「さすがダリオさんだよ……」


そんな声がちらほらと上がる中、その高慢な物言いに、見ていたジークがむくれて前に出る。


「なんだよそれ! セラが今、どんな顔して生きてるか、お前には見えてないのかよ! それに、お前だってついこの前まで9級だったくせに偉そうに――」


ジークの言葉が終わる前に、ダリオの拳が飛んだ。


「うっ!」


腹に重い一撃を受けたジークは吹っ飛ばされ、背中から地面に転がる。


「ジーク!」


セラが駆け寄る。テオも顔を険しくしてダリオに詰め寄った。


「お前……それでも冒険者か。やりすぎだろ」


「は? 次はお前も同じ目に合わせてやろうか?」


その瞬間、空気がぴりつく。周囲の冒険者たちもざわめき出す。


そこへ、クロスがギルドから戻ってきた。


「……何の騒ぎだ?」


目を細めるクロスに、ダリオが睨みつける。


「……誰だお前は?」


「クロス。ひと月前にこの町に来た」


「ふん、田舎もんか。よくそんなツラでのこのこ出てこれたな!」


ダリオのパーティメンバーも「マジで」「ありえねぇ」と嘲笑を漏らす。


クロスはそれらを無視して一言。


「……勧誘ならよそでやれ。セラは、俺たちのパーティの仲間だ」


その言葉に、ダリオの眉がピクリと動いた。


「は? 何様のつもりだ。じゃあこうしようぜ。勝負だ。お前が負けたらセラを俺のパーティに寄越せ」


セラが顔を強張らせる。ジークもテオも声を失う。


だがクロスは冷たく言い放つ。


「聞こえなかったのか?セラは物じゃない。勧誘なら他所でやれ」


「……ビビったか? ほら見ろ、田舎もんは口だけだ」


周囲の冒険者たちが笑い始める。


セラが唇を噛み、うつむきながら口を開く。


「もう……いい。私がパーティを抜ければ終わる。そうすれば――」


「違う」


クロスの声が被さった。


「セラは、俺たちの仲間だ。……それとも、お前は自分の意思でパーティにいたわけじゃないのか?」


セラは驚きの顔でクロスを見た。クロスは静かに頷き、ダリオに向き合う。


「俺が勝ったら、お前はこの町から出ていけ。そして二度とセラの人生に関わるな」


「いいぜ。だが、俺が勝ったらセラは俺のもんだ。ついでにお前も俺の下僕な。掃除でも荷運びでも、犬の真似でもしてもらうぜ?」


クロスは表情一つ変えずに言った。


「上等だ」



訓練場。


夕暮れに照らされた砂の地面の中央。対峙するのはクロスとダリオ。


審判役のハルド教官が中央に立つ。


「ルールは訓練所の規定に従い、命を奪う攻撃は禁止。相手を倒すか、戦闘不能と認めさせれば勝利だ。いいな?」


2人とも無言で頷いた。


その周囲では冒険者たちがざわめき、賭けが始まっていた。だが――


「ダリオに10ルムだ」


「俺も」


「ダリオに50ルム」


一方的な賭けに、片方だけに賭け金が集まりすぎて賭けが成立しない。


「7級並のダリオが相手とか、勝負にならねえだろ」


「ほぼ全員ダリオに賭けてるぞ。あのクロスって奴、大丈夫かよ」


その様子を見ていたセラが、決意したように手を伸ばす。


「クロスに……私の分、全部賭ける」


手にした銀貨数枚を渡すセラ。その背中を見て、ジークとテオが顔を見合わせる。


「どうする……?」


「けど、クロスは……」


そのとき、2人の肩にずしっと大きな手が置かれた。


「よう、坊主ども。俺の分も賭けてくれ」


振り向けば、筋骨隆々の巨漢――4級冒険者のバルスが、ニヤリと笑っていた。


「まさか……バルスさん……!」


そう言って金貨を2枚、ジークに手渡すと、バルスは豪快に笑い、2人の背を軽く叩いた。


テオとジークは顔を見合わせ、小さく頷いてから、セラの隣に立つ。


「……俺たちもクロスに賭ける」


セラがわずかに目を見開き、そして笑った。


「……ありがとう」


ジークとテオはそれぞれ、クロスへと賭け金を差し出す。


観衆の熱気が最高潮に達する中、ハルドが手を振り上げた。


「――始め!」


訓練場に、砂が舞い上がった。


クロスとダリオの一騎打ちが、今始まった。

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