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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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過去の影

ラグスティアの町に来て、もうすぐ一ヶ月が経つ。

クロスにとっては、訓練と依頼に明け暮れる毎日だったが、町の空気にも少しずつ慣れ、ギルドで顔を覚えられる程度には馴染んできた。


そんな日々の中、ちょっとした話題となっていたのが──例の、「グラスファングの果実味噌煮込み」だった。


きっかけは、硬くて筋張っているために通常は食材にならないグラスファングの肉。

クロスはかつて食べていた牛すじの煮込み料理を思い出し、果実味噌でじっくり煮込めば食べられるのではと試作。これが意外にも好評で、今では宿《月影の宿》の看板料理にまでなっている。


そのレシピは、クロスが商人アシュレイに販売し、アシュレイはこれを自らが経営するゴールドロット商会の商品として売り出し、味付けの要となる果実味噌や専用スパイスと共にレシピをセットにして販売した。


《月影の宿》で食べた人たちの話が急速に広がり、町中の宿屋や食堂がこぞってレシピを購入。いまやラグスティアのあちこちでグラスファングの煮込みが提供されるようになっていた。


アシュレイは「大当たり商品」と大喜びで、商会の帳簿を見るたびに目を輝かせている。


だが、その一方で──


「グラスファングの間引き依頼、一時中止になったってさ」


「食材としての需要が高まりすぎて、狩られ過ぎたらしいな」


ギルド内ではそんな声も聞こえていた。まさか、魔物の“美味さ”が生態系に影響を及ぼすとは、誰も思っていなかった。



クロスがギルド前に着くと、建物の前には20人ほどの冒険者たちが集まっていた。

ざわつく空気、少し引き締まった表情。そして荷物も軽装ではない。


「なあジーク。あれって……?」


「あれ、アミナ村の警戒派遣組だろ。7級と8級の冒険者が対象になってるって、ギルドから通達出てたし」


「俺たちはまだ9級だから無縁だけどな」


とテオが淡々と続ける。


「……昇級する頃には終わってるかもしれませんね」


セラもぽつりと同意し、


「ふーん……」


とクロスは相づちを打つが、その表情は静かなままだ。


(……アミナ村か)


その地名に、クロスの胸の奥で何かがチクリと疼いた。だが、それを表に出すことはない。このパーティの誰一人として、クロスがあの村での戦闘に関わっていたことを知らない。クロスの中であの戦いで亡くなった2人の事があり、他人に話すことでは無いと思っているからだ。


そんな4人は集団を横目に見ながらギルドへと入っていった。



この日、彼らが受けたのは町近くの畑地帯に現れた小型魔物を追い払う仕事。依頼の難度も報酬も手頃で、日当と食事代程度は稼げる内容だ。


作業は昼過ぎには終わり、証明物を携えてギルドへ戻ってきた。


「はい、確認しました。ご苦労さま。受け取り窓口で報酬を受け取ってください」


受付のユニスがいつものように柔らかい笑みで手続きしてくれる。


報告を済ませ、カウンターから離れても、セラはずっと考え込むような表情を崩さなかった。


クロスが気になって声をかける。


「セラ、さっきからずっと顔色が悪いぞ。……何かあったか?」


「……いえ。ですが……」


一瞬、言葉をためらったセラだったが、意を決したように口を開く。


「実は……私が前に所属していたパーティの皆が、今アミナ村に派遣されているんです。そろそろ、任期を終えて戻ってくる頃かと……」


その言葉に、ジークが「そっか」と納得したようにうなずいた。


「それで、気まずくなるかもって?」


「はい……いろいろと、円満に抜けたわけではないので……」


「でも、それってギルドが判断して正式に組み直したんだろ? だったら、ギルドの責任だよ」


テオが静かに、だが力強く言った。


「俺らもセラと組んで困ったことは何もない。実力も態度も申し分ないと思ってる」


「……ありがとう。でも、何か言ってくるかもしれません。元リーダーの性格を考えると……」


「言われたら、その時に考えよう。俺たちは今のパーティでやってるわけだし、誰かにどうこう言われて解散するような関係じゃないだろ?」


クロスの言葉に、ジークもテオも頷く。


「そうだな。こっちはこっちで、ちゃんと進んでるしな」


「……はい、そうですね。ごめんなさい。少し、不安になっていただけです」


セラがかすかに微笑んだ。その笑顔はまだ完全ではなかったが、それでも少し、影が薄らいだように見えた。



ギルドの扉を出た午後の日差しの中、クロスはセラの歩く背を見ながら思った。


(……どんな過去があろうと、今を支えてるのは“今の仲間”だ)


彼の瞳は、少しだけ強い光を帯びていた。


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