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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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夜明けの痛み

 戦いが終わった後の静けさは、まるで夢の中の出来事のようだった。

 あれほどの血の匂いと咆哮、怒声が渦巻いていた場所に、今は重苦しい沈黙だけが残っていた。


 村は辛うじて守られた。

 柵は半壊し、地面には魔物の死骸が転がっている。倒れた冒険者たちは、傷ついた体を癒す暇もなく、それぞれの役目に就いていた。


 そしてクロスは、村長の家の一室で静かに眠っていた。


 「……っ」


 クロスは、鋭い痛みに呻いて目を覚ました。

 真っ先に襲ってきたのは、全身に走る灼けるような痛みと、喉の乾き。だがそれ以上に、目を開けたこと自体が信じられない。


 「……ここは……」


 柔らかな布団の感触、窓から差し込む昼下がりの陽射し。

 見慣れない天井に目を向けながら、クロスは徐々に意識を取り戻していく。


 「気がついたのね……!」


 声と同時に、クロスの顔を覗き込んだのはサラだった。

 赤く腫れた目元と、緩んだ表情が、どれだけ心配していたかを物語っていた。


 「……どれくらい……寝てたんだ……」


 「戦いの後からずっとよ。今は……もう昼過ぎ。ほとんど丸一日経ってる」


 クロスは少し身を起こそうとして、すぐにやめた。全身の筋肉がきしむように痛み、骨が砕けたかのように重い。


 「みんなは……無事か?」


 サラの顔が少し曇る。その反応だけで、クロスは何が起きたのかを察してしまう。


 「……村は、守られたわ。魔物は全て退けた。でも……」


 クロスは黙って続きを待つ。


 「ベルク教官が……倒されたの。ブラッドゴブリンの一撃を受けて……」


 クロスの胸が締めつけられた。


 ベルク――無骨で不器用だったが、剣術を教える腕は本物で、毎日のように厳しい訓練を重ねてくれた男。

 何度も斬り結び、何度も倒され、そしてようやく最近は一太刀入れられるようになっていた。口調は荒く、怒鳴られることも多かったが、それでも確かな信頼と絆があった。


 「……あの人が……」


 呟いたその声は、誰に向けたものでもなかった。


 「ゼルスも……シャーマンとの交戦で……。私、詳しくは見てないけど、火魔法を……正面から受けたって……」


 ゼルス。今回の戦闘で初めて共に戦った魔法使い。

 だが、以前から何度か訓練場で顔を合わせていた。魔法に対する厳しい姿勢と、術式の構築に妥協しない性格を思い出す。


 それでも、魔法を扱う者として、どこかで尊敬していた。

 その彼も、もう……。


 「……他の皆は?」


 「あなたと……ガイル、それにマルダが重傷。でも、生きてるわ。マルダは……片目を……」


 サラの声はそこで小さくなった。

 クロスは息を詰まらせ、拳を握った。負傷した仲間。失った片目。その痛みと恐怖を思うと、何も言葉が浮かばなかった。


 「それ以外は、何とか……生きてる。フリーダ、リオン、ラグナ、ロイ、ハンス、セルス、ハナ。皆で村の周辺を見回ってるわ。もう魔物が来ないようにって……」


 「ナタリー教官とミトは?」


 「村人たちと協力して、新しい柵を作ってるわ。……守るために」


 クロスは天井を見つめながら、静かに目を閉じた。


 守りたかった。みんなを、村を。

 自分にできることは、ほんの少ししかなかったけれど、それでも全力を尽くした。


 けれど、届かなかった命があった。失われた笑顔があった。


 それでも、生きている者は進まなくてはいけない。


 「……ありがとう、サラ。教えてくれて……」


 「無理しないで。治療魔法の副作用で全身が激痛で寝れないと思うけど、今日は……もう、休んで」


 クロスは小さく頷き、深い息を吐いた。

 次第に意識が再び霞んでいく。


 重く、切ない現実を胸に抱きながらも、クロスは眠りへと落ちていった。


 今はまだ、傷を癒す時。

 そして、また前に進むために――。

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