救援と安堵
翌朝、村の東門の柵の向こうから人の声がした。
「門を開けてくれー! カイルが来たぞー!」
それは、見張りをしていたラグナの叫びだった。
村人や冒険者たちが駆け寄ると、そこには見慣れた一人の若者の姿があった。
カイル――ベルダ村の狩人であり、クロスの先輩冒険者だ。
疲労の色は濃いが、その顔には確かな達成感があった。
「町のギルドが動いてくれた……応援、連れてきたぞ!」
その声と共に、後ろから列を成して現れたのは、ギルド職員らしい風貌の男1人と、数十名の冒険者たち。
最前列を歩くのは4級の女性。その後ろには、6級と7級の冒険者が合わせて二十名。皆、整った装備を身につけ、油断のない目で村の様子を見渡していた。
ナタリー教官が駆け寄り、カイルの肩を掴む。
「……無事で、よかった……本当に、よくやったわ」
「……俺、何もできなかったけど……道案内くらいは……」
カイルは照れくさそうに笑いながらも、安堵に肩を落とした。
ギルド職員がナタリーの前に進み出て、落ち着いた声で名乗った。
「私はラグスティア町ギルドより派遣された、職員のバリスです。報告を受け、ギルドと領主代行の指示のもと、救援部隊を編成し、急行しました」
ナタリーが深く頷く。
「助かります。村も冒険者も限界でした。……ただ、一つ、先にお伝えしなければならないことがあります」
バリスが目を細める。ナタリーは周囲の冒険者たちと職員に向けて言った。
「今回、アミナ村を襲った魔物の中には、ブラッドゴブリンと、ゴブリンシャーマンが確認されています」
一瞬、空気が凍りついた。
最前線に立っていた4級冒険者の女が眉をひそめ、声を潜めて呟いた。
「……ブラッドゴブリン? ここで……?」
他の冒険者達からも驚きの声が上がった。
「シャーマンまで? 嘘だろ……」
「上位種が同時に、こんな小さな村に……」
ギルド職員のバリスですら、顔を強張らせた。
「本当ですか……? その情報に、間違いは?」
「ええ。目撃、戦闘、討伐まで、すべて我々が確認しています」
ナタリーの真剣な口調に、場の緊張がさらに高まる。
「……被害は?」
「戦死者は二名。ベルダ村のベルク教官と、ベルダ村所属の魔法使いのゼルス。それと、重症者が三名。ですが……村は守りました」
そう言ったナタリーの顔には疲労が色濃く残っていたが、確かな誇りがあった。
ギルド職員バリスは、しばし沈黙したのち、静かに頷いた。
「……それほどの規模の魔物群、しかも上位種相手に……よく、守り抜きましたね」
その言葉には、疑いも驚きも、そして何よりも深い敬意が込められていた。
「今回の件は重大な事例として、ギルドと領主代行双方が即座に対応を決めました。なので、復興支援金は領主家から支出されるでしょう。柵の再建、資材の補給、必要な援助は、すべて。」
村の人々がざわめき、やがてその視線は自然と村長に向けられた。
村長は、震える声で呟いた。
「……ほんに……ありがてぇ……」
そのままその場に膝をつき、顔を両手で覆い、嗚咽した。
村人たちも、目頭を押さえる者がいた。
バリスはその様子を見て一礼し、続けた。
「周囲の警戒については、只今より我々が交代して対応します。村の防衛線の補強、柵の修理なども段階的に進めていきます。どうか、それまで……休んでください」
その言葉に、ナタリーは深く頷いた。
「ありがとうございます……心から感謝します」
数歩後ろで聞いていたラグナ、ハンス、フリーダたちも、疲労の色を浮かべながらも、ようやく肩の荷を下ろしたように見えた。
「やっと……寝られるな」
「……マジで助かった……」
乾いた笑いと安堵の声が漏れた。
ミトが村の子供を抱きかかえて戻ってきたところで、ナタリーは振り返った。
「ベルクとゼルスの墓は……村の北の丘に作るわ。立派な墓を。彼らが守ったこの村の中で」
その後、町から来た冒険者たちは警戒の引継ぎに入り、ベルダ村の冒険者たちはようやく、戦いの終わりと休息の時を得ることができた。
犠牲はあった。痛みも残る。だが、守れたものが確かにここにあった。
この静かな朝の風の中、戦いの終わりを、村人たちはようやく実感し始めていた。




