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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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防衛線

ナタリーは村の中心に皆を呼び寄せ、防衛計画を確認するための簡単なブリーフィングを行っていた。


「――いい? 今回の戦いは、村そのものを守るためのもの。村人たちは中央広場の周囲に集まって避難を済ませたわ。私たちはその周囲を囲む形で配置に就くけど、それだけじゃ不十分。村の外周に堀を掘って、侵入を防ぐ」


ナタリーの言葉に、仲間たちがそれぞれ頷いた。


ゼルスが杖を軽く地に突き、面倒そうな声で呟く。


「土魔法で空堀を作るのは可能だ。ただ、広範囲をやるなら時間も魔力量もかかる。どう分担する?」


「俺も土を扱える。魔力量はお前ほどじゃないが、協力できるぜ」


ロイが大斧を担ぎながら応じる。陽気な声とは裏腹に、その目は真剣だった。


「助かる。ロイ、お前は土を掘る作業も並行して頼む。フリーダ、お前とガイルは南東側の防衛を任せる。木材を使ったバリケードの設置も併せて進めてくれ」


ナタリーが指示を出すと、フリーダがにっと笑った。


「了解。あたしらで鉄壁の壁を築いてやるさ。なあ、ガイル?」


「……任せろ」


ガイルは静かに応じ、すでに工具を手に動き始めていた。


ミトはクロスの肩を軽く叩いた。


「ほら、あんたも行くよ。堀を掘るのは剣の訓練にもなるんだからさ」


「はい!」


クロスは大きく頷くと、スコップを手にし、ミトの後に続いた。


ラグナが静かに歩み寄り、ナタリーに声をかける。


「北側を沼地化する。水魔法なら得意分野だからね」


「助かるわ、ラグナ。だけど気をつけて。使いすぎると消耗が激しいから、配分を考えて」


「了解。無理はしない」


ラグナはそれ以上多くは語らず、すぐに持ち場へ向かっていった。


一方、マルダは村の屋根に上り、視界の利く位置から周囲を確認していた。目を細めて何かを探るように地平線を睨みつけていた。


「まだ動きはない。でも時間の問題だな。油断すれば、あっという間に囲まれる」


それを聞いたリオンが静かに呟いた。


「森の風向きが変わっている。奴らが動けば、必ず気配が届く。私がその兆候を察知する」


「流石ね、リオン。あなたの目と耳に頼るわ」


リオンも軽く顎を引いて応じる。


クロスは、ミトと共に北東側の堀を掘っていた。汗が額から滴り落ち、剣を振るうよりも重労働だったが、仲間のために体を動かすこの作業が、どこか嬉しかった。


「ミトさん、これで……堀は十分ですか?」


「……まだ浅い。ここから半身までは沈む深さが理想ね。急ぎましょう」


「はい!」


クロスは歯を食いしばり、スコップを強く突き立てた。


その近くではサラが傷薬の確認をしながら、ハナと会話していた。


「ねぇ、もし戦闘が長引いたら、どれくらい回復できると思う?」


「怪我の重症度にもよるけど、あたしはせいぜい五回分くらい。サラは?」


「私は……七回は持つかな。だから本当に必要なときにだけ使う。皆が倒れたら、それで終わりだけど……」


「うん……分かった」


2人は目を合わせ、小さく頷き合った。


セルスとハンスは屋根上に陣取り、弓の確認を行っていた。


「射線は確保できる。あとは、風向きが変わらないことを祈るだけだ」


「だな。あと二十本も矢があれば万全だったが……どうにも心もとない」


セルスが矢筒を軽く叩いた。


「当てればいいんだよ、一発で」


「言うねぇ……でも、それができるのが俺たち狩人だ」


2人は不敵に笑い、弦を張り直した。



日が傾き始めるころには、村の周囲には簡易な防壁と堀、そして部分的に水魔法でぬかるんだ地面が広がっていた。


その中央に立つナタリーが、村を一望しながら静かに言った。


「……これが今、私たちにできる精一杯の防衛線。あとは、来るべき戦いに備えるだけ」


クロスは、その横で深く息をついた。


仲間たちの動き、言葉、その一つ一つが彼の胸に刻まれていく。


力とは何か。その問いに対する答えを見つけるため、彼は剣を握ってここにいる。


やがて空は赤く染まり、夜が近づく。


戦いの火蓋は、もう間もなく切られる。

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