迫る戦火
夜が明け、クロスたちは見張り任務を終えてアミナ村の広場へ戻った。まだ空は薄暗く、朝の霧が辺りに漂っている。その時だった。
「……帰ってきた!」
誰かの声とともに、村の北門の向こうに三つの影が見えた。
偵察に出ていたベルクたちだった。全身に疲労の色が浮かび、服も泥と葉で汚れていた。
クロスは息を飲んだ。
彼らはただ疲れているのではない――顔色は蒼白で、まるで何かに怯えているようだった。
冒険者が集まる中、ベルクが前に出て口を開いた。
「報告する。森の北東――谷を越えた先に、魔物の群れを確認した。数は、ざっと五十体を超える」
その言葉に、ざわめきが広がる。
クロスも思わず背筋を伸ばした。
「魔物はゴブリン。だが、それだけじゃない。群れの中心に……ブラッドゴブリン、それにゴブリンシャーマンがいた。上位種に率いられた統率の取れた群れだ」
ナタリーが表情を引き締めた。
「……ブラッドゴブリンにシャーマン……ただの集団では済まされないわね」
ベルクは無言で頷き、言葉を続けた。
「問題は、なぜこんな規模の群れが、今の今まで発見されなかったのか、だ」
数人の冒険者が小さくうなずいた。
「周囲の間引きは確実に行われていた。こんな規模の動きが兆候もなしに突然現れるはずはないんだ……」
「もしかしたら、他国から流れてきた可能性もあるわね……ザイガル帝国とか」
ナタリーの言葉に、数人の冒険者が表情を曇らせた。
クロスもその国名に聞き覚えがあった。黒い噂が絶えず、内政の不安定さから魔物の扱いにも疑念のある国――。
「理由は分からないけど、もうそんなことを言ってる場合じゃない。敵は目の前にいる。何より、この村に向かって確実に動き始めている」
「なら、村の避難を進めるべきです。子供や老人を連れて森を抜けて、ベルダ村へ向かう。時間はありませんが、それしか……!」
「……それができれば、俺もそう提案してた」
ベルクはかぶりを振った。
「だが、森の中には既に斥候と思しき魔物の動きがある。隊列を組めない村人が移動したところで、途中で追いつかれたらどうなる? 全滅だ」
ナタリーの目に影が差す。
「じゃあ……ここで迎え撃つしかないのか」
誰かが呟いた。
「ええ。森の中で村人を連れて移動しながら戦うなんて、現実的じゃない。村を捨てて移動すれば、逆に壊滅するわ。ここを砦にするしか無いのね」
ナタリーの言葉に、沈黙が落ちた。
「建物を活かして、要所に防衛線を敷く。狭い通路を利用して数の差を減らすしかないわ。突破されたら終わりだけど……それでも、野戦よりは可能性がある」
ベルクの言葉に、クロスは冒険者たちの空気が変わっていくのを肌で感じていた。
恐怖が、焦りが、そして静かな覚悟が人々の胸に広がっていく――。
(この戦い、逃げ場はない。俺たちがやるしかないんだ)
自分自身に言い聞かせるように、クロスは拳を握った。




