先に続く道
深い森の奥。午前の陽光が木々の合間から差し込み、斑に地面を照らしていた。
「……出るぞ。前方、二体確認」
先を歩くガイルの静かな声。槍を握り直しながら、クロスも目を凝らした。
低く唸るような声が聞こえた。影から現れたのは、二体のエイプ――
嘗てクロスが森で追いかけ回された恐怖の相手で、筋骨隆々とした獣型の魔物なので、木々の間を俊敏に移動する。
「来る!」
叫ぶ暇もなく、先に一体が樹上から飛びかかってきた。
クロスは足を後ろに引いて身体を沈め、右からの斬撃で応じる。
鋭く振るわれた剣が、獣の前足をかすめた。
「ッ……!」
重い。一撃で仕留めきれない。クロスは体勢を整えながら、もう一体の動きを確認。
しかし、その隙をついて最初のエイプが地を蹴って迫る。
「下がれ、クロス!」
ガイルの声と同時に、槍が横から伸びる。
鋭い突きがエイプの脇腹を貫いた。うめき声を上げ、魔物が倒れる。
「一対一に集中しろ。敵は“数”で来る」
そう言って、ガイルはもう一体へ突撃。クロスも後を追い、今度は意識を切らさず攻めた。
互いに連携を取り、二体目を仕留めたとき、クロスの呼吸は荒くなっていた。
「……ふぅ……ふっ……」
剣を持つ手が、少し震えていた。
「焦りが動きに出てる。斬ることばかり考えるな。あいつらは“斬れなかった時”に備えて動いてくる」
「……はい……すみません……」
「だが、切り返しはよかった。二撃目で軌道を修正したな。落ち着いていれば、あれで十分いける」
淡々とした口調ながら、確かに褒められていると感じた。
クロスはうっすらと笑って、深く頷いた。
⸻
村へ戻ったのは夕方近く。
風見草亭の厨房では、マリアが香草の瓶をひとつひとつ並べ直していた。
「……この村で育つものだけで、あんな味になるなんてね。商人の目にも止まるわけだ」
昼間、訪れた行商人――アシュレイの交渉は静かに進み、彼女は調味料代用品のレシピを売ることにした。
ただし、内容を限定し、値段は彼女が決める。受け取った金は――
(……あの子が村を出る時に渡そう。これは、あたしからの“餞別”)
マリアはそう心の中で呟きながら、棚に一枚の布で包んだ小瓶をしまった。
(あの子がどこまで行けるか、楽しみだね)
その背中は、いつか息子を旅に送り出す母親のようだった。
⸻
クロスは食堂でスープをすすりながら、剣の重さを思い返していた。
訓練と違い、“本当の戦い”は身体だけでなく、心も消耗する。
けれど――
「明日も、頑張ろう」
小さく呟いたその声に、誰も気づくことはなかったが、
その目には、確かな光が宿っていた。




