↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
PR
30/273

先に続く道

深い森の奥。午前の陽光が木々の合間から差し込み、斑に地面を照らしていた。


「……出るぞ。前方、二体確認」


先を歩くガイルの静かな声。槍を握り直しながら、クロスも目を凝らした。

低く唸るような声が聞こえた。影から現れたのは、二体のエイプ――

嘗てクロスが森で追いかけ回された恐怖の相手で、筋骨隆々とした獣型の魔物なので、木々の間を俊敏に移動する。


「来る!」


叫ぶ暇もなく、先に一体が樹上から飛びかかってきた。

クロスは足を後ろに引いて身体を沈め、右からの斬撃で応じる。

鋭く振るわれた剣が、獣の前足をかすめた。


「ッ……!」


重い。一撃で仕留めきれない。クロスは体勢を整えながら、もう一体の動きを確認。

しかし、その隙をついて最初のエイプが地を蹴って迫る。


「下がれ、クロス!」


ガイルの声と同時に、槍が横から伸びる。

鋭い突きがエイプの脇腹を貫いた。うめき声を上げ、魔物が倒れる。


「一対一に集中しろ。敵は“数”で来る」


そう言って、ガイルはもう一体へ突撃。クロスも後を追い、今度は意識を切らさず攻めた。

互いに連携を取り、二体目を仕留めたとき、クロスの呼吸は荒くなっていた。


「……ふぅ……ふっ……」


剣を持つ手が、少し震えていた。


「焦りが動きに出てる。斬ることばかり考えるな。あいつらは“斬れなかった時”に備えて動いてくる」


「……はい……すみません……」


「だが、切り返しはよかった。二撃目で軌道を修正したな。落ち着いていれば、あれで十分いける」


淡々とした口調ながら、確かに褒められていると感じた。

クロスはうっすらと笑って、深く頷いた。


⸻


村へ戻ったのは夕方近く。

風見草亭の厨房では、マリアが香草の瓶をひとつひとつ並べ直していた。


「……この村で育つものだけで、あんな味になるなんてね。商人の目にも止まるわけだ」


昼間、訪れた行商人――アシュレイの交渉は静かに進み、彼女は調味料代用品のレシピを売ることにした。

ただし、内容を限定し、値段は彼女が決める。受け取った金は――


(……あの子が村を出る時に渡そう。これは、あたしからの“餞別”)


マリアはそう心の中で呟きながら、棚に一枚の布で包んだ小瓶をしまった。


(あの子がどこまで行けるか、楽しみだね)


その背中は、いつか息子を旅に送り出す母親のようだった。


⸻


クロスは食堂でスープをすすりながら、剣の重さを思い返していた。

訓練と違い、“本当の戦い”は身体だけでなく、心も消耗する。


けれど――


「明日も、頑張ろう」


小さく呟いたその声に、誰も気づくことはなかったが、

その目には、確かな光が宿っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。