これからの話
マーサは私が泣き止むのを待って聞いてきた。
「これからの事ですが、お嬢様は明日タリグ侯爵子息のオニキス様と婚約の為に顔合わせを致します。」
そうだ!
明日がオニキスとの婚約の日だった。
「オニキスとなんか婚約したくない!」
あいつはアゲートが好きでジャスパーと私が不貞するように画策し、ジャスパーが私を殺すよう誘導した。
まんまと彼奴らの計画どうりにジャスパーと不貞した私が悪い、というか本当に馬鹿だった。
「もう何が悪かったかおわかりですね。」
マーサが優しく見つめてくる。
死ぬ前はマーサの言うことを聞かず、欲望のままに行動して結局は殺されたんだ。
「うん。いつも周りに当たり散らしてアゲートの物をなんでも欲しがってた。
親に愛されてるのが羨ましくてアゲートの持ってる物を奪ってたけどただ八つ当たりしてただけ。
ジャスパーに近づいたのもアゲートの婚約者だったのもあるけど何となく自分と似てるなって思って親近感もあったんだ。」
今思えばジャスパーもアゲートに利用されてた。
アゲートはジャスパーが自分を嫌うような行動をし、世間的には婚約者の義務を果たしているように見せていた。
オニキスも義務を果たしてたけど会うと私はいつもイライラしてた。
裁判でイライラの理由が見下されてたからだって分かった。
·····死んでからわかるって私どんだけ馬鹿なの?
落ち込んでるとマーサが頭をポンポンと軽くたたく。
「反省は大事ですがそこから学んで未来にいかさなければいけません。
落ち込んでる暇はありませんよ。」
「はーい。」
マーサはやっぱり厳しいけど私のことを考えて言ってくれてる。
「笑っている場合ではありません。」
ヘラヘラ笑ってたら怒られた。
でもそれも生きているからだって嬉しい。
そんな私の気持ちがわかるのか苦笑いして話を進めた。
「お嬢様はまだジャスパー様をお好きですか?」
「死ぬ前は好きだったけどさすがに殺されたら愛も冷めるよ。」
あの時のジャスパーは正気じゃなかったけど、それでも無理だ。
マーサも突き飛ばしたし。
「オニキス様にも好意はないのですね。」
「あんな奴!
マーサ以外の人なんて嫌悪感しかないよ!!」
見下し利用することしか考えない人ばかりだ!
「お嬢様、御家族はともかく使用人や他の人から見下されるのはお嬢様の言動もあるのです。
アゲートお嬢様の物を奪い癇癪や我儘を言い続ければ周りから見放されるのは当然ですよ。」
·····わかってる。
でも裁判で侍女長や執事長の供述を聞いて改めて皆に蔑まれてるってわかった。
そんな人達とどう接していけばいいの?
私の今までの態度が悪かったのはわかってるけどあいつらに謝って態度を改めても一緒じゃない?
抑々両親からの関心がないって時点で馬鹿にされてんだから。
「仲良くしなくても攻撃する隙を作ってはいけないといつも言っているでしょう。
今のお嬢様なら身をもって知っているでしょう。」
「·····うん。」
隙だらけだったから、利用され殺されたんだ。
死ぬ前の私は欲望に忠実な子供だった。
「隙を作らず淑女として恥ずかしくない作法と知識を身につけなければ待っているのは破滅です。」
マーサは真剣な顔で諭す。
私を心配してくれているのは痛いほどわかった。
死ぬ前も分かってたのに私は両親の関心や愛を掴むのに必死でちゃんと向き合ってなかった。
「マーサ、ごめんね。
私がもっとちゃんとマーサの言うことを聞いていたらあんな死に方しなかったのに――」
一番の後悔はマーサが殺された事だ。
泣き出した私をマーサが抱きしめてくれた。
「まだそんな未来はきていません。
決してそんな未来にはしません。」
力強い声に私は頷く。
そんな未来にはしない。
絶対に!
死に戻りが神ノーダムの与えてくれた慈悲なら回避する努力は惜しまない。
「暴れたり逃げたりしないで勉強頑張る!」
「それは無理でしょう。」
そんなキッパリ言わないでよ!
私の短気さを知られてるからしょうがないけどー。
「お嬢様だけの問題では無いからですよ。
今までは手の打ちようがなかったのですが、今は違います。」
えーと?
「お亡くなりになった辛い記憶があるお嬢様にこれを言うのは――」
言い淀んでいるマーサの腕を掴んで強く促す。
「そんなの気にしないで!
私は変わらなきゃいけない。もう自分が死ぬのもマーサが殺されるのも絶対に嫌!
その為ならなんだってする!!」
私の言葉にマーサは極上の笑顔を向けてきた。
「では私と一緒に命をかけてください。」
え?




