リズヴァーンの両親来訪
堅い決意をしたけれど、新学期はまだ一月半先だ。
意気込みは一旦底の方にしまって、実家暮らしを堪能しよう。
うちの領地は言い伝えのある場所だ。
どんな話かと言うと……
【昔この地は高い山々が聳え立っていた。
ある時天空で戦いが起こり、傷ついた一頭の竜が天から落ちてくる。
その衝撃で山々は崩れ去り、大地は衝撃で抉れた。
傷ついた竜は土地からエネルギーを分けてもらい、傷を癒す。
やがて癒えた竜は天へと帰るのだが、感謝を込めて祝福を施す。
流れた竜の血は祝福により、土地を潤す。
剥がれ落ちた鱗は濃密なエネルギーの塊となり、土地に散らばった。
大地を潤す水は、抉れた窪みを枯れることのない湖と変えた。
その湖の水は作物を豊かに育てる。
以降大平原となったこの土地は、エネルギーに溢れ実りの豊かな大地となる】
なんてどこまで本当で、どこからが作り話かは分からないけど、この土地は作物を育てるのに最高の土地で、味も収穫量も他所と比べ物にならない。
しかもどんなに日照りの年でも、湖が枯れることはなく、湖の水を利用した田畑は不作知らずだ。
そして何より、土地を耕してると、稀に出てくる【竜の鱗】と呼ばれている鉱石は、解析不能なのだが、エネルギーに溢れていて、それを一つ地中に埋めるだけで、結構な範囲で豊作になる。
だから竜の鱗と言うのは本当なのかもしれない、なんて言われている。
そんな土地を有する我が国は、飢饉知らずで、食生活は豊かだ。
食料の輸出で国庫も潤っている。
だからこそ隣国が侵略してきたんだけど、いくら飢えて死に物狂いで攻めてきても、ご飯をたらふく食って、気力体力十分な我が国には勝てない。
瞬発的に押されても、長期戦となったら兵站がモノを言う。
北の山脈の向こうは未開の大地だし、西はうちの国より広大な領土を持ち、他所までちょっかいを出さない。
南の国は海の幸と交易で潤っている。
なので問題は東の国なんだけど、今はリズヴァーンの家がガッチリ護りを固めてるから安心だ。
そんなわけで、うちの領地は国の食料事情の要だし、リズヴァーンの家は守りの要なので、爵位の割に立場が有る。
妻や娘に甘々な父は、仕事ではキレイゴトばかりでないらしいし、母もほんわりしててにこやかだけど、芯が通ってると言うか……逆らっちゃあダメだってのが、滲み出てたりもする。
兄は美少女フェイスの見た目で成績優秀、シスコンがウザく思える事もあるけど、優良物件。
豊かな領地で手腕を振るう祖父母は、孫に激甘。
ヒロインの友達ポジなのにヒロインより恵まれてていいのかなぁ。
クリスティーナ大丈夫かな。
近隣の領主や、町長や村長が挨拶に来たり、庭師が雪像を作るのを手伝ってみたり、凍った池でスケートしたり、たまには書庫で大人しく読書をしたりと日々を過ごしていると、リズヴァーンの一家が挨拶に来た。
「ジェームス、久しぶりだな。
いや、ジェームス様とお呼びするべきかな」
「トーマソン、そのやり取りは恒例行事なのかい?」
「ははは、様式美だよ」
リズヴァーンの父のトーマソンはうちの父親の二年先輩にあたる。
学園を出た後、爺様にその腕を買われ、我が家の私兵になり、めきめきと頭角を現し、小隊長の一人となったのだ。
2メートルを超える長身に、厳つい体、腕も足も太くてこげ茶の天パーもと髭も相まって、モロ熊って感じだ。
リズヴァーンと同じ濃紺の瞳は垂れ目で、そのおかげかガタイの割に威圧感は薄い。
「フレデリカ様ご無沙汰しております」
「まぁ、マルグリット、そんな堅い挨拶は嫌だといつも言ってるでしょ。
今は貴女も貴族の一員なのだから、遜る必要は無いと言っているのに…」
「いえ、そう言うわけにはいきません。
幾つになっても、どんな立場になろうとも、フレデリカ様は私の大切なお嬢様なのですから」
リズヴァーンの母親のマルグリットは、昔母のお付きをしていた男爵家の三女だそうで、辺境伯の妻となった今でも、母のことを敬っている。
父と母に挨拶した後、リズヴァーンの両親は畏まり、祖父母に挨拶をした。
二人の元雇主だからね。
いつもはデロアマな爺様も、威厳を持ち挨拶を交わしている。
勿論挨拶の後は砕けるんだけどね。
大人同士の挨拶が終わったところで、そろそろ来るぞ。
「キャスティーヌちゃん!相変わらず小さくて可愛いわね!」
テンション上がったマルグリットに両手を取られ、ブンブン振られる。
「おお、本当にいつ会ってもちんまりしてて可愛いなぁ」
………そりゃあ2メートル超えの熊と、180センチ近いマルグリットの間だと、余計に背の低いのが目立つけど、小さい小さい言い過ぎだと思う。
「どれ、トーマおじちゃんが肩車してやろうか」
「あら貴方、キャスティーヌちゃんは成人超えてるのよ、レディーに肩車なんてダメです。
どうしても肩車したいのなら私がやりますよ。ね?」
ね?と言われても、俺が肩車してって言った訳ではないし。
「いえ、マギーおば様、肩車は遠慮しておきますわ。
それよりお疲れてましょうからサロンへ参りましょう」
ニッコリ微笑んで掴まれた手をキュッと握り返すと、
「ああ!本当に可愛くてどうしましょう!」
とテンションマックスになってしまった。
どうしましょうって、サロンへ移動しようよ。
「ああ、本当に可愛いなぁ」
「どうだ、うちの娘は世界一の可愛さだろう」
「その言葉に反論する奴がいたら、俺が叩きのめしてやる」
………なんで俺の周りと言うか、キャスティーヌの周りは身内の贔屓目が激しいんだろう。
そこまで可愛くないって。
色合い的にも顔の作りも地味だって。
兄の方が美少女だって。
「本当にこんな可愛い子、周りが放っておかないでしょう」
「でもまだまだお嫁にはやらないわよ」
聞いてるだけで朝恥ずかしい会話をしつつ、大人6人の瞳は俺一人に注がれる。
そんな大人の行動はものともせず、リズヴァーンは兄にべったりだ。
いつもの風景に、一斉に漏れるため息。
「さあ、サロンへ行きましょう、キャシーが疲れてしまいますよ」
色んなことを全てスルーで兄が言う。
いやー、兄ちゃんブレないね。
とにかく移動移動。




