試してみよう…ってまたかよ
兄とベルアルムが話し合い、双方が納得した後で、俺は空の魔石に付与を与えることになった。
うーん、命に関すること?
いや、魔石付与だから、多重付与ができるかどうかだし、兄へプレゼントしたやつの【過労死退散】みたいな思いを込めて、いくつか付与をするんだよね?
さっさとやって、俺のしょっぱい能力を検証しよう。
いざ始めようとしたら、今まで無言だったリズヴァーンが待ったをかけた。
つうか居たんだよね、静か過ぎて存在忘れてたよ…婚約者の俺が!
「キャスティーヌのお腹の子に影響は無いと言えるのか?」
ああ、それ大事だよね。
安定期とは言え、お腹の大きい妊婦だし、魔力を使う事だから、絶対に影響がないとは言えないのでは?
リズヴァーンの言葉に皆がハッとする。
兄は俺のことは考えていてくれたけど、お腹の子のことは頭から抜けていたようだね。
逆にリズヴァーンはお腹の子第一?
ありがたいっちゃあありがたいけど、なんだか微妙な感じもする?
「それは大丈夫です。
神殿では女性の神官が産み月まで付与を与えたりしています。
寧ろ妊娠した後、それまでほど魔力を使わなくなりますから、魔力溜まりを防ぐためにも付与をされていますよ」
あー、確かに俺も妊娠発覚してから、それまでほど魔法を使わなくなったよな。
魔力溜まりって確か過ぎると体調悪くするとか聞いたことあるし、何であろうと溜めるのは良くないよね?
んじゃあ張り切ってパーっといこうか。
うーん、そうだなぁ…この前出会った冒険者はこの国には居ないけど、俺のイメージの中の冒険者の様に、いろんな場所へ行ったり、魔獣と戦ったりする人達って、やっぱり命がけだと思うんだよね。
だって下手したら死ぬし、喰われる事もあるんだよ?
魔獣を狩る時には、防御結界とか張ってるだろうけど、万が一結界が切れたら命に関わるから、死なない様に、結界プラス防御力アップ、ついでに魔力切れで結界を張れなくなった時のことを考えて、魔力回復の効果が有れば、死は遠ざかるんじゃないかな。
人々の安全と、美味しい食卓の為にも、魔獣を狩る人が安全であります様に…………どうだ!
魔力が動く感触があったから、付与は成功したんだと思う。
期待して目を開けたけど、前回みたいに魔石が光ることは無かった。
ベルアルムは鑑定道具も持って来ていて(用意周到だ)鑑定してみたけど、付与は成功しているけど、付いていたのは【防御力アップ 小】だけだった。
あれ〜〜?
その後4回ほど試したけど、付与は出来るんだけど、効果は一つだけだった。
部屋の中を沈黙が支配する。
く……空気が重い。
もう一度…と思ったけど、リズヴァーンからストップがかかった。
「手を抜いている様子はありませんでしたね。
ではなぜ……?」
「やはり偶然なのでは?」
頭を傾げるベルアルムに冷静に兄が言う。
俺もそう思うので頷いたんだけど、そこでまたリズヴァーンが声を出す。
最近本当によく喋る様になったよね。
「バザーに出品して買われて行ったのは二つだけでは無かったのだが、異変が有ったのはこの二つだけなのだな?」
「ええ、他に何か有ったとの申し出はありません」
ベルアルムの言葉に暫し考え込んで、リズヴァーンは自分の考えを述べる。
「意識するからダメなのではないのか?」
ん?ドイウコト?
「こう言う付与を付けようとか、複数の付与をと意識して考えるから失敗するのでは?
アルバートへのプレゼントや、そちらの二つは【何か特別な事をしよう】としたのではなく、無意識に自然と【こうなれば良いな】と言う気持ちが奇跡を起こした…そう考えることはできないか?」
いやー!奇跡を起こしたなんてそんな大仰な事言わんといて下さいな!
なんだかスゲーことやらかした感じに聞こえるから!
って俺が内心青くなってるのに、兄達は「それだ!」みたいに、手をポンと打っている。
「なるほど、無意識で他人の命を守りたいと願う心が奇跡を起こすのですね。
納得できます」
なんでだんだん大袈裟になって来てんの?
「さすが僕のキャシー、まるで聖女のようではないか」
やーめーれー!!
違うら!残念チートなだけだから!
思ったようにならないなんて、失敗以外の何物でもないじゃん!
落ち着いてよーく考えようよ!
「そうですね、まるで伝説の聖女様のように慈悲深いお方ですね」
……………………………………もう突っ込むのも疲れた……。
兄とベルアルムはなんだか盛り上がっていたけど、知らん!
スルーだ、スルー!
俺が疲れ切ってソファーの背もたれに体を預けると、いつの間にかリズヴァーンがソファーの後ろに立っていて、肩にそっと手を置いた。
うん、物静かなのってこういう時イイよね。
何も言わなくても、俺の内心の疲れをわかってくれてるようで、ちょっと安心する。
んでふと気になった事があるんだけど、以前実習で魔獣を一人で倒したけど、あの時も無意識で威力の強い魔法が発動したよね?
もしかして俺って【無意識魔法増強チート、但し初回のみ】とかなんじゃないの?
すっっっごく残念感溢れるんだけど?
まあ、これは黙っておくべきだよね、面倒くさくなりそうだから。
その後、今日のことは他言無用とキッチリ言質を取って、ベルアルムを見送った。
あー、まったり平穏な生活が希望だけど、どうせならもっとちゃんとしたチート能力が欲しかった……気もしないでもない。
人の心は複雑なんだよ。




