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第百四十一話 結婚式を止める者


 

 ---別視点---

 

 

 

 ガバッ──!

 

 

 イヤな予感にかなみが飛び起きた!


 

 「なんか、珖代が勝手に結婚する予感がする⋯⋯」

 

 真夜中に何かを思い立ったチート少女は、耳の後ろを指で押さえ目をつぶった。そして、強い念を送り出す。

 

 

 ──(もしもし? 諜報部のみんなー、夜分遅くにごめんね。何か異常とか不自然なものを見かけた人いない? 情報が欲しいんだけど⋯⋯)

 

 少女は普通に念話が使えたのである。

 

 ──(は、はい! あります、エギネであります!)

 

 

 レイザらス諜報部隊専用念話チャンネルでかなみが呼び掛けると、若干20歳のポンコツ頑張り屋エギネが元気いっぱい返事をした。

 

 

 ──(街を出るこうだい様を目撃したため追跡中! 現在メンソール・ワイル⋯⋯ソールワイ・ダットリー⋯⋯メンじゃなくてえーっと、ワイルド・ダットリーさんと一緒にいる模様!)

 ──(エギネ、場所は?)

 ──(あなっ、えっと、旧アジトです! であります!)

 

 

 「⋯⋯レイたちの住んでた洞窟かー」

 

 

 未だ胸騒ぎが収まらないかなみは唇を触りながら少しだけ考えを巡らす。

 

 ──(分かった。一匹(・・)、応援を派遣するよ。それで何かあったら連絡ちょうだい)

 ──(わかりました! 失礼します!)

 

 

 「ふぅ⋯⋯」

 

 地上の穴から旧アジトの最下層を見下ろすエギネは念話を終えた直後、緊張の糸がゆるんだのかため息を漏らした。

 

 「応援かぁ、どうしよ⋯⋯。こうだい様が結婚するかもしれないって知ったらお嬢きっと」

 「誰が結婚するって、エギネ殿」

 「うわぇあ!? えっ、貴女は」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 遡ること数分前。

 

 ワシことウルゲロは、ユールを偵察するいち監視者として不振な動きを繰り返すキクミネコーダイを尾行していた。

 

 「なんとっ、こんな僻地(へきち)でパーラメント様と密会とは。こぉれは早急に報告せねぇえば」

 「誰に報告するんだ?」

 

 不覚だった。

 まさか尾行を続けるワシを尾行するものがおったとは。もう一人、変な女がドタドタとコーダイを尾行していたがそれに気を取られ気付けなかった。

 

 「誰かと思えば、ダットリー様ではありませんか」

 

 あのイカれた少女エビトウカナミでなかっただけマシである。

 

 ワシは知っている。ユールにまつわる全ての事象には必ずあの少女が関わっていることを。そして、胴体を引き裂いても再生復活し、大量のおもちゃ兵を操り、どこにでも現れ、あの方に匹敵する魔力を有していることも。故にあの少女だけは絶対に戦ってはならない。裏切り者だとバレてはいけないのだ!

 

 「その右手を下ろしてはくれませんか? S級冒険者の一撃を受ければこの老いぼれ、死んでしまいかね──」

 「命が惜しかったら聞かれた事だけに答えろ。てめぇは誰の命令でここにいる」

 「それはもちろん──」

 

 ワシは躊躇(ちゅうちょ)なくあの御方の名前を告げた。すると、あの冷静沈着が服を着て歩いているような男が息を詰まらせるほど動揺した。ワシの口元が思わず緩む。

 

 「洗いざらい吐け。お前たちは何を企んでいる」

 「吐くも何も、最初に仕掛けたのはアナタでぇえすよねえ? 二番手(マイルド)・ダットリー」

 「なに?」

 「覚えていないとは言わせませんよぉお。あの日あの時、あの場所で、アナタがイザナイダケを喋る代わりにチカラを得ようとしたのは変えようのない事実なのでぇえすから」

 「てめぇ、あの時ヤケに突っかかって来た男か⋯⋯!」

 

 十数年前。単身、男が城内へ殴り込み、我らが御方に謁見を果す事件があった。その男の目的は人探しで──。

 

 

 『ヒトを探したい。それに見合うチカラをオレに寄越せ』

 『無礼者! 寄越せとはなんだ貴様!』

 『()い。対価はなんだ』

 

 

 その男は無礼にもチカラを得る交換条件として、イザナイダケの在り処を教えてやると上から目線だった。あの方の側近としてワシは分をわきまえないその男に厳しく接した。

 

 

 『黒蠍(ブラックスコーピオン)の生息地を知っている』

 『ほう』

 『貴様! まだ無礼を重ねる気かァ! この御方が黒蠍の根絶にどれだけの時間と労力を割いたと思っている! 存在しないものを天秤にかけるなど! この御方の功績を愚弄(ぐろう)するつもりか!』

 

 

 奴隷解放戦争の折に全ての黒蠍を処分したと思われていたが、ダットリーの言葉をきっかけに事態は動き出した。

 

 

 『あれは存在していて良いものか? いいや、ならぬものだ! それを貴様如きニンゲン風情がっ、根絶しきれなかっただと? 嘘をつくならもう少しマシな』

 『今はイザナイダケと呼び方が変わっている! そのせいかアンタらが恐れるような事にはなってない。かろうじてな』

 『だが⋯⋯それもいつまで続くか分からない』

 『ったりメェよ。トップは話が早くて助かるぜ』

 『なりません⋯⋯! このようなうつけの言葉など信じるに(あたい)しません! どうか落ち着いてくださいませ!』

 『お前はずいぶんと落ち着いてるな。ウルゲロ』

 『⋯⋯、この男の話を信じるというのですか?』

 『魔族の未来と天秤にかけるなら、能力のひとつくらい安いものだ』

 

 

 不愉快だった。ただでさえ無礼者な上に、忌々しいヒト族が五賜卿(メンソール)サブスキル(マイルド)を得たことが。

 

 

 『せめて確認が取れてから能力を与えるべきではなかったのですか?』

 『心配か? ならお前も見てくればいい』

 『わ、ワタクシがですか?』

 『お前が偵察し、納得すれば誰も文句は言うまい。頼んだぞ、ウルゲロ』

 

 

 結局ワシは監視を任され、下等なニンゲン共と十年も過ごすことになった。故にワシはこの男が大嫌いでならない。

 

 「ワシを脅しているつもりらしいが、余計な事をすれば貴様も裏切り者であると言いふらす。覚悟しておけ」

 「チッ⋯⋯」

 

 軽く舌打ちをしたあと、ダットリーは手を下ろした。

 

 「ま、待ってくれ⋯⋯!」

 

 下から、キクミネコーダイの大きな声が聞こえる。

 

 「監視員がいた⋯⋯? それじゃ、お前たちが来るより前から、俺たちはずっと監視されてたのか?」

 「どーなんでしょう。ねえウルゲロさん」

 

 パーラメント様のよぶ声が聞こえて──しめた。と思った。

 ワシは隙を見て杖を使って移動し、パーラメント様の元に姿を表した。

 

 「ひゃっひゃっひゃ⋯⋯。いやはや、ここら一体を知り尽くす商人さんにはバレてしまいましたかぁあ」

 

 ワシにしてはいい機転。ダットリーも結局降りてきたが、ヤツも関わっていることをバラされるのは恐れている。これで簡単にはワシらに手出し出来なくなったという訳だ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 それから十分後、話は(こじ)れに拗れる。

 

 何せワシは、神父役を任されていたのだから。

 

 「(なんじ)、キクミネコーダイはこの女、ウィッシュ・シロップを妻とし、富めるときも貧しき時も、病める時も健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛を誓い、共に寄り添うことを誓いますか?」

 「誓います」

 「それでは、誓いのキスを──」

 「ちょーーっとまったぁぁあ!!」

 

 新婦と新郎の間に、隕石のような人影が落下した。

 

 周りが見えなくなるほどの砂煙を自ら断ち切って、女の姿が現れる。

 

 「珖代殿、貴方が誰と結婚しようが私は構わない。だが、かなみ殿が祝福した者でないのなら話は別だっ!」

 

 ボロボロのビリビリに破けた深緑の外套(がいとう)の上に左胸を覆う銀のメイルを着た女が(まく)し立てるような剣幕をみせる。

 お世辞にもキレイと言えないブロンドヘアーを後ろでひとつに結んだ女の持つ殺気が、長剣が、パーラメント様に向けられた。

 

 「私の目が茶色い内は好きにはさせん!」

 「なぁあに者だ貴様!」

 「⋯⋯ヒナ⋯⋯?」

 

 (こら)えきれない感情を抑えるようなか細い声でダットリーが言う。すると今度はその剣をダットリーに向けた。

 

 「その名で私を呼ぶなッ!! 私は彼女とは違う!」

 「俺たちの⋯⋯かなみちゃんの関係者ですか?」

 「⋯⋯語る時間も惜しいが仕方なし。私こそが初代大地の騎士団(マルセリットオルデン)騎士団長瀬芭栖(せばす) 陽姫(ひなひめ)ッ! 今はセントバーナードをしているぞ!」

 

 どうやら、かなりの大物があらわれたようだ。

 

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