第百二十三話 トオルの回想
遅くなりましたが
第五十九話 『出し抜かれた五賜卿③』
の衝撃のもうひとつの真実について語られる回です。
9/7要点のみしぼって短くしました。
~トメサイド~
「お姉さま?」
かなみ様たちの住まわれている平屋の一軒家にハーキサスを名乗る神官が養生していると聞き、駆け付けてみれば、これ正しくウメがいた。ウメはワタクシのただひとりの姉、ウメ・ハッシュプロ・ハーキサス以下略。
ウメはリビングのソファに腰掛け、湯気の立ち込めるマグカップを持ってコチラを凝視していた。呆気に取られているというか、何も言葉が出てこない様子で。
「お姉さまー!」
「ちょっ、トメ? 危ないですわよっ」
本来はお姉さまの言葉を待つべきなのでしょうが、待ちきれなかったワタクシは懐へとダイブさせて頂いた。マグカップを遠くへ置いて頭を撫でてくださるお姉さまの手はアツアツだった。
「お久しぶりですねトメ……。また、大きくなりましたか?」
「はい! お姉さまはお変わりなく。まさか、本当にいらしていたとは露も知りませんでしたわぁ!」
「アナタたちより遅れて来たのですから、ムリもありません。ワタクシが眠っている間に、ラッキーストライクを封印したようですね。さすがワタクシの妹です」
「いえいえ、封印はかなみさまが行ったことですし、ワタクシは別段なにもしていませんわ」
優しい声も、穏やかな匂いも、何も変わらずお姉さまであることが至福のひとときに思えてならない。ずっとこのままでいいとさえ、思ってしまう。
「聞くところによると、勇者さまのパーティーに入ったというのは本当ですか?」
「はい。ですから、お姉さまにはもう会えないかと……」
神官になったお姉さまはいつ家に帰ってくるか分からない。それなのにワタクシまでコータローを追いかけ家を出てしまったのだから、もう会えないと思って当然。しかしお姉さまはワタクシではなく自分を責めた。
「ワタクシが勝手に神官になったせいで、トメとカメには迷惑を掛けましたね」
「いいえっ。お姉さまが家督を継ぐ以外の道を開いてくれたのと、妹のカメが継ぎたがってくれたおかげで、ワタクシは勇者さまと自由に旅が出来ているのです。お気になさらいでください」
「そう。旅は楽しい?」
「はいもちろんです。お姉さまは──」
と、ここまで口にして、止まる。
神官は楽しいですか? と聞きたかったが大怪我を負っていたと聞いていたし、首元の包帯を見てそれが真実だと悟った。
ワタクシとは違い、本当に家督を継ぐのが嫌で嫌で神官なるしかなかったお姉さま。よく見るとずいぶんとやつれた顔をしてらっしゃった。
自分の幸せ加減に気付いて心が痛む。
「あ、あのー?」
空気を読まず、ナカジマというこの家の召使い? が入ってきた。
「お二人とも、本当にもう訳ないんですが、もうひとりの神官の方がお迎えに来てます」
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~トオルサイド~
大空洞から程遠くない場所に、かつて人々も畏れ崇めたとされる超巨大草食獣の肋骨が数本、天に向かって伸びている。荒野化した時に滅びてしまったのか定かではないが、連なったアーチ状のそれが幾つか点在するのを見れば、群れで滅びたのは一目瞭然。そんな自然の偉大さを見下ろせる切り立った崖に、男がひとり、誰かを待つように景色を眺めながら背筋を気持ちよさそうに伸ばしていた。
「ん〜〜、はぁ」
男の名は斎藤 貫。
細い目をさらに細めて、トオルは少し前に覚えた衝撃の事実を思い返していた。
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かなみの封印術式により大空洞に閉じ込められてしまった二人の五賜卿とその補欠は『ラッキーストライク』の魔称について語り合っていた。
パーラメントが目線を下ろし何か言い淀んでいることにトオルは目ざとくも気付く。
「パーラ先輩。伝えてない真実とかまだあったりする?」
「はい……いえ、いいえ! これ以上の真実なんてないです! 戯言はやめなさいっ!」
無意識に肯定してしまい必死に否定するパーラメントだったが、観念したようにもうひとつの真実を語り始める──。
「……お母様は生前、嘆いておりました。『病を移してしまった。息子も私同様、長くは生きられないだろう』と。その推測の通り、モリスマキナ様が亡くなられた数年後、ご子息も後を追うように亡くなられました」
「ゴシソク。……それって、ボクには弟がいタっノ?」
「いいえ、違います。亡くなられた息子というのは、アルデンテ様──アナタの事です」




