第百十八話 【不死斬り】
まずは洸たろうのステータスをば。
水戸洸たろう ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
レベル 80
攻撃力: 2320
瞬発力: 1830
持久力: 3000
集中力: 1090
物理耐久力: 2960
魔法耐久力: 3050
スピード: 760
魔力: 5660
運(標準1000): 平均1100
勇敢 : 8600
──限定条件発動型固有能力──
【不死斬り】
#アンデッド特攻+1300%
#延焼火力+300%
#延焼時間+120%
#敵注目度+100%
#マルチタスク+80%
#精神昇華+40%
#身体昇華+20%
#視野広角+10%
#一極集中-20%
#肢体強度-30%
#運-30%
#┠ 延焼 ┨発動状態
────触れた相手の身体を燃やす。
#┠ 延焼(黒点) ┨
────詳細不明。
#┠ 聖者 ┨発動状態
────アンデッドに恐怖心を植え付ける。
#┠ 希望 ┨発動状態
────味方の身体、精神、運を少し上昇させる。
#┠ 自動回復 ┨Lv5
────わりと長く自動でキズを癒せる。
#┠ 火炎耐性 ┨- 大 -
────被火炎魔法、被延焼効果に強い耐性を持つ。
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遠巻きに燃え盛る二本の剣を眺めながら、パーラメントは疑問を口にする。
「あの剣は一体どういうことなのでしょう?」
「そうか! あれは┠ 心中勝利 ┨ではなく┠ 道ずれ ┨のスキル」
自らの“気づき”も含めて、パーラメントの疑問をリズニアが解消する。
「差し支えなければそれは、どのような能力で?」
「┠ 心中勝利 ┨は殺された後になんでもひとつだけ願いが叶うのがメインですから、正味な話、相手を殺した上で自分は一回だけ生き返ることも可能です。ですが┠ 道ずれ ┨という能力は、発動条件までは一緒ですが相手を殺し切ることに特化した能力。だから相手が死ぬまで殺し続ける。一種のウィルスように」
「ういるす?」
聞き慣れない単語にパーラメントが首を傾げるとリズニアは丁寧に説明を続けた。
「たとえ不死者であろうと殺す。形を変えて延々に襲い続け絶対に殺す。それが┠ 道ずれ ┨。その “絶対” の恩恵をこうたろうは【不死斬り】という形で得たようです。私でも聞いたことないスキルなので恐らく固有能力なんでしょうねがね」
リズニアはひとつ、疑問に思っていたことがある。それは『洸たろうは自分で【不死斬り】を持っていることにいつ気付いたのか』というものだった。
思い返せば洞窟突入前、岩に隠れて珖代とカクマルの決着を見届けたあと、彼はこう言っていた──。
『死ぬことで発動する能力とかってありませんでしたっけ?』
あの時──、仲間であるはずのカクマルを刺した珖代の不可解な行動を見て、洸たろうは錯乱状態に陥り自分の中で正当化しようと変な発言してるのかと思っていた。だがしかし、【不死斬り】を授かったことを知れば少し違った見方ができる。あれは目の前で刺されたカクマルではなく、スケインに対する疑問だったのではないかと──。
リズニアはもっと前に遡り、いつからなのか考えてみることにした。
──洸たろうはいつから気付いていて……。その兆候はいつ……。
そうして元女神は、あの日を思い出す。
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アルデンテ撃退から三日後(五賜卿襲来前日)──。
「リズニア様、数々の御無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした」
〈お食事処レクム〉を中心に街全体がアルデンテを討伐したと勘違いして、祝勝パーティーを夜通し開催していたその日。生活用水として使われる北の井戸の近くに来るようリズニアはある人物に呼ばれていた。その人物とは勇者、水戸洸たろう。
洸たろうは開口一番に頭を下げて謝った。
「僕が女神様を仇のように捉えてしまうことさえなければ、二日も気を失うほどの大怪我を負わせることもなかったはずです。本当になんと謝ったら良いものか分かりませんが……謝らせてください」
「フガフガ (いえいえ)、くひひヘはへんハハ (気にしてませんから)」
リズは口いっぱいに頬張った骨付き肉を飲み込んだ。
「それで、要件はなんです?」
「いや、あの、今のがそれなんですが……」
「じゃあ、何か聞きたいこととかは」
「はい?」
「なければ帰りますです」
元女神がそう言うと勇者は少し困ったように頭を捻りながら、ある悩みを語った。
「そう言えば、変な感覚があるんです。新しいスキルを覚えた感覚に近いような気がするんですが、それがなんだかよく分からなくて」
「いつからです?」
「今朝です。今朝からです。ベッドから起き上がった時から急に」
リズは腕を組んだ。
「うーん、それじゃなんとも言えませんねー。スキルを覚えた瞬間は、歯が一本抜けたような無性に気になる違和感に襲われるそうですが。でもそれは寝てる間に頭が整理されていき、目覚めたときにはスッキリして、自分がどんなスキルを覚えたのか分かるようになるものです。こうたろうもその感覚は分かりますよね?」
「ええまあ。三日前に【黒点】で火だるまになって┠ 火炎耐性 ┨を得たばかりですから分かります。ただ、僕が感じているのはそれとはまた別の感覚なんです。外部からずっと、じわじわ染み込み続けてる感覚が今もあるんです」
「おでんですか」
リズニアは眉を動かし頑張って考えてみるが、そもそもスキルを得るという感覚をあまり知らない彼女にはまったく分からない感覚だった。だから適当に答える。
「聖剣のせいじゃないですかー?」
「はぁ……、それはなぜ」
「今は聖剣こうだいこうたろう、どちらの手元にもありません。だから聖剣がこうたろうを呼んでるとかなんじゃないですか? こうだいはそんな事言ってなかったので、なんとなくですが」
「な、なるほど……」
「とりあえず聖剣の今は私にも分からないので、こうだい呼んでどうするかふたりで相談してみてください」
「分かりました」
「ではそれでは。お肉〜♪ お肉〜♪」
リズは陽気にスキップをしながらその場を後にした。
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肉を食うことに余念がなかったあの日の自分を思い出し少し目眩がする。しかし、ようやく理解した。
あの時勇者が抱いていたモヤモヤこそが【不死斬り】の兆候であったのだと。
「スキルについてお詳しいようですが……アナタ何者なんです?」
パーラメントが聞いてきたのでリズニアは真面目に答える。
「暇を持て余した女神です」
「……ふふ、天界とは案外生ぬるいところなんですね」
普段なら冗談と括られるリズの正体を、パーラは笑いながら冗談で返すように言葉にした。彼女が五賜卿として、また、商人としてどこまで知っているかは分からない。だが、含みのある言い方であることはリズにも伝わった。
~珖代サイド~
洸たろうはアルデンテと睨み合う。
柄の白い剣は真っ赤な炎を剣身に潜らせていて、柄の蒼い剣は勇者が【黒点】と呼ぶ炎と同じように黒く燃え盛っている。
【不死斬り】の能力を知るのはこの世でただひとり水戸洸たろうしかいない。しかし、不死を斬ると豪語すればアルデンテが動かないはずが無かった。
「いいだろう。不死を斬るのは困るからボクも本気を出そう」
アルデンテは歯を見せて笑うと、最後の切り札とばかりに残った左手で指をパチンっと鳴らした。
一瞬だった。
「ボクが何もせず……おにぃちゃんたちを向かい入れると思ったのかィ?」
第一層、
第二層、
第三層──。
その床、壁、天井に、夥しい数の血塗られた魔法陣が出現した。大量のアンデッドが手を伸ばし中から這い出てくる。
アルデンテの秘策、血塗られた世界が至る所から三人に襲い掛かる。
「【地獄狩りの陣】……はてさて、耐えられるかナぁ?」