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第八十八話 初代騎士団ちょッッッ!!!


 「バウぅ! バウバウぅ!」

 

 セバスの陽動に一万の屍兵がいとも簡単に撹乱されていく──。

 

 「どうなってんのよアレ」

 

 前に進みたい者とセバスを追いかけたい者とがもつれ合い、先頭から次々と倒れ出す。先頭が倒れればおのずと後方のホネが骨を押し潰し、仲間うちで勝手に自滅。数を着々と減らしてゆく──。

 上から見下ろしている三人からでも、自滅していく姿は一目瞭然だった。

 

 「奇襲に近い陽動がめちゃんこに効いてんなぁ。コイツらにもある程度目的に向かう意志のようなものがあるのは分かっちゃいたが、その回路が今は完全にイカレちまってる。こりゃあアルデンテ(ヤッコさん)が気付くまで、しばらくチャンスタイムだな」

 「まあ、それがお嬢のケモノさんの狙いだったんでしょーが……、まんまと美味しい所を持ってかれた。これじゃあ、残党狩りとなんら変わらんですね」

 

 少し残念そうにするレイに、寄り添うようにアルベンクトが隣に立つ。身長は同じくらいだがアルベンクトの方が少し肩幅がデカい。レイは目も合わせず少しづつ距離を取る。

 

 「要するに、あのケモノちゃんのおかげで好機(ぢゃんず)が生まれたってコトね! は あ く ♡」

 「今そう言ったよな」

 「ササッ、イッちゃいましょ♡」

 「おい、聞け。触るな!」

 

 アルベンクトが嫌がる二人の背中を押すことで、三人は横並びに歩き始めた。レイは腕を組まれまいと必死に抵抗を続けている。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれぇ! だったらオレたちも一緒に──うぉッ」

 

 三人を追いかけようとする冒険者は、地面に突然空いた大穴に足を取られ腰がすっぽりハマってしまった。

 

 この防壁は二日ちょっとで造られた超急造ハリボテ仕様。壁としての最低限の役割は果たすが、踏み場所によっては空洞になっており踏み抜き易いことを冒険者は失念していた。

 

 「あ、あぶねぇ。忘れてた」

 

 そして──崩れやすい場所であったことを再確認した上で、不思議な感覚に襲われる。なぞの敗北感だ。

 

 ──ああ、クソ……これがオレとあのヒトたちとの差なのか? 今のオレには、後ろをついて行くことすらままならないなんてな……。

 でも、そういうことなら仕方ねぇか。足元もおぼつかねぇオレがついて行ったところで、それこそだもんな……本当スゲぇよあのヒトたちは。周りが笑っちまうようなミスも犯さねぇんだから。絶対に。

 

 置いていかれた惨めさを感じる反面、軽い準備運動をしながら敵地へ赴く漢たちの後ろ姿を見て、強い憧れを抱いた。

 

 

 ──いつか自分(オレ)も、こんな冒険者(ふう)になれたら。

 

 

 心に願ったその刹那──。

 

 

 三人の真下の床がごそっと抜けた。

 

 

 ドゴォォォオン──ッ!!!

 

 

 辺り一面に衝撃音が響いたのはその直後のことだった。

 

 

 「……あ、……ああ」

 

 

 冒険者が絶句するのもムリはない。あれだけカッコよかった漢たちが同時に目の前から消えたのだ。理解などスグに追いつく筈もない。

 

 

 しかし、

 何事も無かったかのように。

 何かを示し合わせるように。

 落下した三人が防壁を勢い良くぶち破って出てきた。

 

 

 「よし──。いくか」

 

 

 その顔はどこかで縁起でも担いで来たみたいに清々しかった。

 今の彼らなら出来ないことは何も無い、そう思えるような晴れ晴れとした──。

 

 

 「いやいやムリムリムリ! 無かったことには出来ねぇよォォ!!?」

 

 血だらけのダットリーが決意をキメると、血だらけのレイと血だらけアルベンクトが不敵な笑みを浮かべて立ち上がる──。

 

 

 新たな三つの脅威が地上に放たれた。震えて待つがいい、屍兵どもよ。お前たちの進軍もここまでだ!

 

 

 「てか何さらっと壁壊しちゃってくれてんだよォ! 作戦台無しにする気かァァ!!」

 

 なんか聴こえるそれを無視して、口元を拭いながらアルベンクトが微笑む。

 

 「妙にやり切った感出しやがって! 一歩目で満身創痍じゃねぇか!」

 

 なんか聴こえるそれを無視して、レイが両肩を交互に見やって何度も埃を払っている。

 

 「ホコリか? ホコリを払ってるのか? 誇りなら一緒に落ちたよ! オレたちの目の前でなッ!!」

 

 ダットリーが肩を鳴らし終えると、ついに三人は歩き出した。走らないのは余裕の表れか。それともガチの重症か。

 

 「よし──。いくか」

 「仕切り直すな聞こえてねぇフリやめろ行くならさっさと走れ!!!」

 

 一切言うことを聞かない三人に、冒険者の堪忍袋の緒がついにキレた。

 両目を掌底で抑えながら天を仰ぎ、悶え叫ぶ。

 

 「ぁあぁぁぁあ!! 一瞬でも憧れたオレがバカだったァァ!!」

 

 悲鳴は届いたのか三人が一斉に振り向く。

 

 「いいから行けよ!!! オレなんか気にすんなよ!!!」

 

 はい出た冒険者は、上から聖水の小瓶が大量に入った木箱を投げようとして周りに止められた。


 

 

───────────

 

 ──第一防壁門 西側──

 

 

 

 軽くしなやかな腹筋を露わにする麗人は、片足を頭蓋骨に乗せボロボロの布切れを巻いた剣を担ぎ不機嫌そうに遠くを眺めていた。

 

 

 雨はもう既に、本格的に降り出している。

 

 

 「なんだなんだ? 敵の援軍か、あん? ……何か、引っぱって来てんのか?」

 

 東側から一直線に向かってくる二、三百の群れ。そのアンデッドの群れの先頭を走る一匹のケモノに、視線は吸い込まれる。

 

 「ヒャッハァァァァ──!!」

 「おい! あのバカっ……勝手に飛び出しやがって」

 

 何かを感じ取った女とは違い、モヒカンは二本の剣を掲げながらものすごい跳躍力を見せ、上空から金色のケモノを狙う。

 

 「──ッ!」

 

 しかし、有り得ないことが二つ起きた。

 一つ目は水系魔法をぶつけてきたこと。咄嗟に片剣を投げつけ霧散させることで当たらずに済んだが、それによりモヒカンは視界を奪われた。二つ目は飛ばした剣を咥え、モヒカンの一撃を無駄のない剣捌きでそのまま防いだことだ。がら空きの胴体を狙った筈なのに、スレスレで咥えた剣を合わせられ、全身をくねらせるように反動を利用して男を軽々飛び越えた。

 

 「ハハハァ……? ハハァァ──!」

 

 一瞬、動揺したモヒカンだったが、スグに振り向くと最高の獲物を見つけたとばかりにニヤァと笑った。もはや男には目の前の標的以外見えていない。たとえ数百のアンデッドが背後から襲い掛かろうとも、それには気付けないほどに。

 

 その時。

 大きな影が頭上を通り過ぎ、モヒカンは反射的に目で追った。獲物よりも凶暴で凄まじい圧。その背中に畏敬の念が湧いてくる。

 

 大きな背中は一陣の風の如き圧で背後にいたアンデッドのほとんどを一掃してみせた。

 

 それこそ、栄えある騎士団の長の背中。手足がビリビリきた。

 

 「……バカヤロウ」

 「す、すいません長。夢中になり過ぎたっす! ただ、このマモノはオレにやらせてくれませんか?」

 「──だから、誰に剣向けてんだって言ってんだバカヤロウ!!」

 「痛ってぁッ!?」

 

 モヒカンは長にバチコンッと頭を叩かれたが、何故叩かれたのか分からないようでキョロキョロしている。

 

 魔物を狩ろうとしてどうして殴られなきゃいけないのか。その不満を口を尖らせて表現する。

 

 「てめぇさっきの話し聞いてなかったのかァッッ!!」

 「……例の、団長(・・)に応援要請出したって話っすか?」

 

 東西のアンデッドを五〇〇人では受け止めきれないと判断した大地の騎士団(マセリットオルデン)の長は、東側の一万も対処すべく現役を引退したとおる元団長に至急助けを求めた。運良くユールに住んでいることは知っていたからだ。

 ちなみにモヒカンや女戦士は誰が来るのかは分かっていても、会うのはこれが初めて。なので少しだけ緊張していた。

 

 「黄金の毛並み──。類まれなる剣技──。水属性魔法の使い手といやぁ、うだつの上がらねぇオレら犯罪者予備軍を拾い上げ、大地の騎士団をゼロから作り上げた最強の初代騎士団ちょッッッ!!!──セバス騎士団長しか居ねぇだろがッッ!!」

 

 長は剣を咥えたまま行儀よくお座りをするセバスを指さした。

 

 「ああ、あのケモノがすかぁぁ!!? ジブンてっきり、ニンゲンかと……」

 

 激しく動揺するモヒカンの傍らには、数十の敵を、落ち葉を掃く感覚で軽く蹴散らしてやって来た女が立っていた。

 

 「なんだオマエ、聞いてなかったのか」

 「聞いてたとかそういう問題じゃ無いっしょ! つーかてめぇは何でざっとみ知ってる感じなんだよ!」

 「狂犬って異名があるくらいだからな。もしかしたらって思うだろ普通」

 「狂犬……。このざっとしないイキモノはイヌなのか?」

 「セバス団長はイヌ化の呪いを受けてこうなった元はニンゲンだ」

 「へー。オレ、イヌなんて初めて見たっす……」

 

 モヒカンがジロジロとセバスを眺めていると、突然大量の水が降ってきて長がずぶ濡れになった。

 

 「すいません……。オレの監督不行き届きです」

 

 続けざまに水玉は何度も長を襲い、長も一切避けることなく被り続ける──。

 

 「もうそのへんでいいじゃないすか」

 

 それがセバスの魔法によるものだと気付いたモヒカンがさすがにやり過ぎだと止めに入る、が──。

 

 「邪魔をするなッッ!!! これは結成当初からある気合い注入のしきたりッッ!! こうやって……憑き物を……、落とすゥッッッ!!!」

 「「スゲェな初期組……」」

 

 滝行のように何度も水魔法に打たれながらも喋る鬼面の長に若干、引いてしまった二人は止めることが出来なかったし、賛美することもまず出来なかった。というか普通にどん引いていた。

 やがて、水流の試練を突破した長は清々しい顔の仁王立ち状態で姿を表した。憑き物が取れたような眼差しで一歩前に進み、一段と増した怒号で部下たちに指示を飛ばす。

 

 「セバス団長のことは団長、オレのことは今まで通り長と呼べェッッッ!! いいなッッッッ!!!!」

 「「「はいッッ!!」」」

 

 気迫に胸打たれ、部下たちは一斉に目標を定めた。

 

 「ここら一帯は、オレたちで片をつけるゥッッッ!!! それでいいですねッッッ!!! 団長ッッッッ!!!!」

 

 こうして、伝説の初代騎士団長を加えた大地の騎士団は更に勢いを増して、西のアンデッドを破竹の勢いで駆逐していくのであった。

 

 

 雨足が強くなる中、彼らにはさらなる幸運が待ち受けていることに、彼ら自身気づいてはいなかった。


 

大地の騎士団について疑問の声を頂いたので、次回はそちらをメインにお答えします。


また、質問や応援メッセージはいつでも受け付けていますので!┠꒳ ┨

よろしくお願いいたします(☆ФωФ)ノニャーン♪

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