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第八十七話 ホンモンの脅威

今回懐かしの人物が登場します!

いったい、どなた?


覚えているかな……?


 ──再び、第一防壁門──

 

 

 

 「壁はどうだ! 門も含めて“脅威”じゃねえか!?」

 「いいねぇ! それなら魔吸剣や聖水も“脅威”だなぁ!!」

 「王都からの援軍も追加だぁー!!」

 「環境が“脅威”だ!! 暑さが“脅威”だ!! この地形が最強だぁぁあ!!!」

 「イザナイダケの出荷は世界でユールだけ!」

 「レイザらスのおもちゃだってここが一番最初だろ!?」

 「あれもこれもって“脅威”しかねぇのかウチはよォ!!」

 「ユールこそ最強! ユールこそ“脅威”!! うおおおおおお」


 どこもかしこも嬉しそうに聴こえるそんな悲鳴と狂騒は、いつの間にか自慢大会に姿を変えていた──。


 「騒ぐな! 持ち場につけぇ!」


 ダットリーの隣に居た冒険者はややヒートアップし過ぎる面々に憤りを感じたのか、身を乗り出して下に向かって叫ぶが、その声が届かない。

 

 「たくっ、盛り上がってる場合じゃねぇってのに……。ダットリーさん、アンタからなんとか言ってやって──、ダットリーさん?」

 

 男が顔を覗き込むとダットリーは静かに笑っていた。

 

 「な、なに笑ってるんすか」

 「……いやなに、“脅威”ってのはある意味認めた相手にしか使わねぇ言葉だ。それがこんだけ素直に出てくるってのに、まぁだ気付いてねぇんだから笑うしかあるめぇよ」

 「気付いてない……? なんだっ、アンタはもう、敵の怯えてるもんに気付いてんのか!」

 「さぁ、分かっちゃいねぇよ。……ただな、ここにいる七十人に、五賜卿がビビってねぇとも限らねぇだろう?」

 「「──ッ!」」

 

 冒険者も、少し離れた場所から聞いていた保安兵も、ダットリーの狙いに気付いて声を漏らす。

 

 「我々に……」

 「オレらに、ビビってる……」

 

 口にだしてようやく理解する。ダットリーがなぜ皆の前で脅威について語ったのかを。

 

 「てめぇら自身が“脅威”って発想、たどり着かねぇもんかねぇ……」

 「ダットリーさん、貴方まさかっ、それを気付かせるためにわざと──」

 

 二人が一連の流れを全て悟る頃には、下の喧騒もだいぶ落ち着きを取り戻していた。それを見てダットリーが言葉を放つ。

 

 「さて、頃合いか」

 

 時を見計らって一歩前に出る。

 すると、不思議なことに僅かに残っていた喧騒もピタリと止んだ。

 

 その場にいる全ての保安兵、

 全ての冒険者の視線が。

 期待が。要求が。

 防壁門の上に立つひとりの男に注がれる──。

 

 「もう一度てめぇらに問う──。たかが一万に、ビビる必要はあるか?」

 

 それは、彼らに投げかけた最初の質問と同じだった。

 

 「「「「「ありません!!!!」」」」」

 

 異口同音。全ての者たちがその質問にノーであると覇気をぶつけるように答えた。

 ダットリーにとって誰が脅威であるかなんて心底どうでも良かった。肝心なのは、ここに集まる七十人に“自分たちこそ脅威”であると思い込ませて全体の士気を上げること。狙い通りに行ったからこそ男は、不敵に笑うしか出来なかった。

 

 「覚悟はいいなッ!! ホンモンの“脅威”ってやつを、オレが、お前が、てめぇらが! チカラの限り思い知らせてやれぇぇぇえ!!!」

 「「「「「おおおおおおおおお」」」」」

 

 地鳴りする怒号──。

 奮い立つ身体。湧き上がる闘志。

 尋常ではない熱気は天高く渦巻き。

 ひとつの大きな意思となる。

 

 

 今ここに──『ホンモンの脅威』完成である。

 

 

 戦士たちは高らかに唄いだす。

 負けない。絶対に負けない。

 オレたちだって。いや、オレたちこそ、この街を守護(まも)る“脅威”なのだと──。

 

 

 「ダットリーさん、ひとつだけ教えてください」

 

 天高く拳を突き上げるダットリーの背後に立ち、保安兵はしばらく気になっていたあることをぶつけてみた。

 

 「貴方が思う“脅威”とは、一体誰なんですか」

 

 保安兵の質問にダットリーはたっぷりと時間を使った。悩んではいるが、答えは最初から決まっている──。そんな葛藤がみえた。

 

 「……そうさな。二番目の弟子だな」

 「また別のお弟子さんですか。お弟子さんを、愛しているんですね」

 「本当に脅威なだけさ──」

 

 

 

 脅威=二番目の弟子説。

 

 

 

 その言葉は単なる照れ隠しなのかもしれない。──だと言うのに背後から漂うその哀愁は、憂いと優しさの他に何かを複雑な気持ちを秘めているようだった。

 

 「さーて、オラぁちょっくら先陣切ってくっから、聖水(バケツ)班は適当に頼んだぜ」

 

 しんみりとした空気感を自ら破り、ダットリーは単独でぶつかりに行くと宣言した。準備運動がてらに首を鳴らすしていると、近くにいた保安兵が床の穴に躓きながらも慌てて駆け寄る。

 

 「お、お待ちくださいっ! あの中へ一人で行かれる気ですか!?」

 「一万が束になりゃあ、防壁を無理やりよじ登ってくる可能性もある。だもんである程度散らす役目が必要ってなハナシだろ。となりゃあ、オレが出るしかあるめぇよ」

 「そんなことはありません! むしろ、ダットリーさんだけは残ってもらわないと困ります!」

 「あん? どーして」

 「貴方の姿が拝めるからこそ、我々は恐怖を押し殺し闘えるのです。皆の士気にも関わります、どうかここは別の作戦を……!」

 

 面倒くさそうに腹を掻くダットリーの態度を見て、押し切れば止められるのでは? と説得を試みるも、態度とは裏腹に決意は固かった。

 

 「……わかんねぇ奴だな。誘い込み漁業には囮が必要なんだよ。それとも、代わりにオマエさんやってくれんのか? どうなんだ」

 「い、いやそれは……」

 「……。ほかに行けるやつは」


 ダットリーがその場にいる全員を細目で睨むと、全員が首を激しく横に振った。

 

 誰だって無茶はしたくない。

 さすがに敵陣に突っ込んで生きていられるほど自分たちが“脅威”で無いことは重々承知しているのだ。

 

 部隊を再編成すれば数人分くらい見繕うことが出来るのでは? と考える者もいたが、それを口にすれば自分も行かされるのではと尻込みしてしまう。

 すると、場の停滞感を感じ取ったひとりの大柄な人物が飛び出してきた。

 

 「こーのデシャバリジジイが。どーせスグにお迎えが来るって言うのに、ナァァーニ生き急いでんだか──」

 

 ダットリーは強烈なディスり口調に馴染みがあり過ぎて無意識に振り返る。想像していた通りの人物。否、想像よりデカい図体に少し見上げた。

 

 「──そーいう面白そうなコトは、アタシも交ぜなさぁぁぁぁーい♡ デコイジジイ」

 

 そこに居たのは筋骨隆々のスーパーハイパーワイルド服ピッチピチオネェさん、アルベンクトだった。

 珖代に┠ 威圧 ┨の使い方をレクチャーした最初のおと……霊長類(マスターママ)である。

 

 ゴリゴリのマッチョうーメンだが、死にたくない良い子はアルベオネェさんと呼んであげよう。

 

 「おめぇ戻ってきてたのか。店はどうした、潰したか」

 「イヤンっ、だーれが怪力で物理的に店を潰したメスブランカよ! はっ倒すわよっ! 確かに王都のお店は畳んだけども」

 「潰れてんじゃねぇか」

 「だとしても、愛するド田舎(ふるさと)の危機に駆け付けられない女は漢じゃねぇわなぁあ!?」

 「駆け付けられない女は男じゃねぇわなぁ」

 

 ツッコミなのか復唱なのか、ありのままの事実確認をする妙に冷めたダットリー。

 その背後に、またもや別の人影がひとり。

 

 「おいおい、自分たちだけで美味しいとこ取りってのは頂けねぇなぁ……。 だからよぉ──もう一人くらい増えても構いませんよね? 大地を粛清する者(グランドゼロ)さんよ」

 

 そこに居たのはレイザらスのボス、レイだった──。

 

 幼馴染みで新妻のリリーに一番の脅威は君だよと励まされ続け、満更でもない感じにテンションの上がっている男が、勢いそのままにしっかりとオールバックを決めて防壁の上へとやってきた!

 

 「あーらよく知ってるわねそんな古い言葉。もしかしてアナタ、追憶体験者(フラッシュバッカー)?」

 

 死の淵を彷徨いながら自力で生還した者にのみ現れるという超覚醒能力。それが追憶体験者。

 全ステータスを超向上させるその能力は、一説によるとターコイズに眼が輝く時、他者の瀕死体験を生死問わず見抜く事が出来るとされている。

 アルベンクトは半分冗談で言ったつもりだったが、返ってきた反応は意外なものだった。

 

 「ご想像に任せる」

 

 そう言ってレイは光の届く深海を凍らせたような眼を向けた。

 

 「その瞳の色、そう……。いいわ♡ アナタ色男だし、特別にアタシの隣りで戦わせて あ・げ・る 」

 「一番危険じゃねぇか」

 「ジジイー? 死にたいでちゅかー?」

 「ん、なんだありゃ」

 「聞きなさいよ! ミミイカレてんのォ?!」

 「いや、ホントになんかいますぜ」

 

 ダットリーはわざと話を逸らした訳じゃなかった──。今も、下の門から飛び出した小さな影を目で追っている。

 

 その四足歩行の小さな影は、まっすぐ全速力でアンデッドの軍勢へと向かっていく。

 

 「え、うそ、あの小動物ひとりで突っ込む気じゃないもしかして!」

 「落ち着け。まだそうと決まったワケじゃねぇ」

 

 ダットリーのその言葉通り、その生き物はアンデッドたちの先頭に向かって何度も吠えると接触ギリギリの所でなんとか横切った。

 

 「あれは……、お嬢のケモノさんだな」

 

 お嬢のケモノ──つまり、レイにとってかなみのペットという認識にあたる生き物はひとりしか居ない。

 

 危険を冒してまで走り出したセントバーナードのセバス・ヒナヒメ──。

 その目的に、三人は目を見張ることになる。

 

 

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