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第七十九話 レオナルドの魔眼

 

 ~レオナルドサイド~

 

 

 

 解析を続けるワニニャンコフ先生もとい賢者プロテクト。

 街や戦況を観察し情報を集める西の王様。

 資料の読み返しと物資の手配、伝書の写しを転送させるレオナルド・ブラックスリー──。

 

 玉座の間では変わらず緊迫した状態が続いている。

 

 「先生、現在の敵兵力は?」

 ──(依然として二十七万は停止中。大地の騎士団(マセリットオルデン)が一万の軍勢と交戦し、半数は片付けた所だ。因みに、隊に犠牲者は出ていないよ)

 「ハハッ、抑圧してきた甲斐があったな。アイツら五百人でガンガンにおしているぞ」

 

 愉快そうに破顔する陛下を見てレオナルドは少しピリついていた。

 

 「その抑圧のし過ぎで、彼らがどれだけケンカ沙汰を起こしてきたことか……」

 「ん? なんか言ったか」

 「いえ、なんでも」

 

 王都で起きるケンカの約八割は、大地の騎士団の誰かしらが関わっている。そのため彼らが王都に待機している間のケンカ発生率は異常に高い。

 レオナルドはそこを上手く利用出来ないかと画策し、大地の騎士団と直接会って不祥事を万事解決してみたり、強制的に飲みに誘われることで親睦を深めた。そうやって信用を勝ち取ることで、彼はある程度の指揮権を得たのである。

 

 

 『ユールに向かってください』

 『それは陛下の命令か? それとも……まあ、いいか。アンタの頼みでも』

 

 

 レオナルドの指示で大地の騎士団が動いたのも地道な活動と、彼らのフラストレーションの溜まり具合を理解してあげられたことが大きかった。

 もちろん、荒くれ者から信用を得るために尋常じゃない労力を掛けてきた訳で──、それと比べれば陛下のわがままなんて可愛く見えてくる。

 無邪気な笑顔に怒る気もなくなると云うものだ。

 

 「これでラッキーストライクはコマを全部晒したというわけですか……」

 

 そう呟くと彼はまた険しい顔に戻った。レオナルドにはまだ、油断出来ない最大の理由が残っていた。

 

 ──ここまで、もうひとりの五賜卿が動いていない。このまま何もしないでくれればいいのだが……さすがにそれは高望みすぎか?

 

 話し合いの中で三人は、五賜卿パーラメントには動けない事情があるのでは? という疑問に至った。それが何であるか分からない以上、危険であることに変わりはないのだが、レオナルドにはこのままでいてくれと願わずにはいられなかった。

 

 「賢者よ、第三防壁門(ゲート)手前に戦闘の痕跡を発見した。おそらく大魔法の撃ち合いがあったのだろう。大地の割れ目を中心に解析を頼めるか」

 

 陛下が鏡で見下ろすその場所は、つい先程まで薫たちが戦いを繰り広げていた荒野だった。その証拠に、ユイリーの極院魔法による地割れがハッキリと確認できる。

 

 ──(了解した。今すぐ取り掛かろう)

 「陛下、少しよろしいですか?」

 

 神妙な面持ちで隣に立つレオナルドに、王様は不思議そうに用件を訊いた。

 

 「なんだ」

 「亀裂を見せてください。ワタシの目なら何か、情報を掴めるやもしれません」

 

 そういうとレオナルドは鏡越しに荒野の地割れ付近を、その、太陽の一切を反射するガラス玉のような眼で注意深く注視し始めた。

 

 その光景に賢者がすかさず反応する。

 

 ──(王よ、彼は魔眼持ちか何かで?)

 「ああ、まさにそれだ。レオナルドの両目は【魔視(まし)眼】といってな、通常のヒトには視認することの出来ない魔力のゆらぎや色、大きさ、さらには痕跡から何があったのかを()ることが出来るのだ」

 ──(それは……過去の痕跡まで追えるのですか?)

 

 ゆらぎは魔法発動の有無を特定し、色は魔法の種類を、大きさは魔法の強さを意味する。そしてその痕跡捜索は、壁や地面に僅かにでも残る魔力の残滓から当時の状況を視る能力であり、今現在『過去が視えるほど【魔視眼】を使いこなせるのはレオナルドだけ』である。

 

 「こいつの用心深い性格と相まって、能力が真価を発揮したらしいのだ。まったく、困った能力だ! ハッハッハ」

 ──(つまり彼には、魔視眼を通してどんな魔法が発動したのか、誰が魔法にやられたのかを知ることが出来る。という訳ですか)

 「ハッハッハ。それだけではないぞ! 世界中どこを探しても、過去を見て使用者の当時の感情まで見抜ける【魔視(まし)眼】の使い手は、レオナルドを除いて、他には存在しないであろう」

 

 隣に立つ王様は自分のことのように、自信たっぷりに言ってレオナルドと肩を組んだ。

 

 「少し黙って! あと邪魔です!」

 「え、そんな怒る……?」

 「怒るでしょうが! 少し集中させてください」

 「……ごめんてぇ」

 

 賢者プロテクトが二人の主従関係のあり方をメモに書き込んでいる間に、レオナルドの分析が終わった。

 

 「極院級の噴出火炎系魔法が放たれた形跡がありますが死亡者はおりません。それどころか、アンデッドの消滅痕すら見当たりませんね。専門的なことは何一つ言えませんが、ここには何も“無い”かと。もう少し周辺を探してみます」

 「そうか。それが解れば十分だ」

 ──(なるほど。貴殿がレオナルド君を傍に置きたい理由が、ようやくわかりましたよ)

 「条件付きでよければ貸してやるぞ?」

 ──(貴方との交渉は骨が折れそうだな)

 

 王様も賢者も冗談ぽく笑った。

 

 「悩む必要はありませんよワニニャンコフ先生……。先生の作品がいち早く読めるなら、ワタシはいつでもすっ飛んで駆け付けますから! てか行きたいッ!」

 「さっさと調べい」

 

 王様は無感情でツッコんだ。

 

 「陛下。南の方に何か、小さな痕跡が続いています。移動してもらってもよろしいですか?」

 

 レオナルドに言われ、陛下は鏡映をずーっと下にスクロールしてみせた。素人には代わり映えのしない光景だが、レオナルドの眼は目まぐるしく動いている。

 

 「ストップッ、止めてくださいっ! ここです……! ここに、消滅痕があります! それもたくさん……」

 「こんなだだっ広いだけの場所にか? 何かあるようには見えないが……」

 

 陛下が首を傾げるのもそのはず。

 その地点には亀裂だとか焦げ跡だとか不自然な崩壊だとか、そういった争いの形跡らしきものが一切見えない場所だったからだ。しかし、レオナルドにはハッキリと見えていた。過去にこの場所で何があったのか。

 

 「アンデッド特有の消滅痕です。それも、数にして一万はくだらない量……なのに、肝心なこれを起こした魔法の痕跡が一切残っていません」

 「なんだと?」

 「きっと、きっと目に見える変化が他にあるはずです。もう少し近づけますか?」

 

 陛下はレオナルドの力説に推されるままこと鏡をズームアップし、そして、物的証拠になり得そうなものを見つけた。

 

 「ヒトの頭蓋骨……それと折れた鉄剣か……。でかしたぞレオナルド。ここで何かあったことは、これでほぼ確定だな」

 「ありがとうございます」

 ──(他に痕跡は?)

 「不思議なことに何も見当たりません。ワタシの眼には、やはりアンデッドが突然蒸発したようにしか……」

 「賢者、優先してこの場所の解析を頼む。座標は──」

 

 玉座の間は、まだまだ忙しそうだ。


 

 

───────────

 

 

 

 物資流通のために開放されている第一防壁門から、西に三百メートル地点──。

 

 

 総勢一万の亡者軍団に対するのは、総勢五〇〇の大地の騎士団。

 

 

 彼らの戦いは熾烈を極めていた。そう、ここはまさに戦場だったのだ──。

 

 

 


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