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第七十一話 王都視察隊隊長レオナルド・ブラックスリー

懐かしい登場人物が二人出てきます。

 


 ──王の間──




 濡れたソバージュをなびかせる黒髪の男が、深刻さを噛みしめるような表情(かお)で玉座に座る威厳の前に(ひざまず)いた。

 

 「レオナルド・ブラックスリー、ただいま帰還致しました」

 「うむ。ユールへの任、ご苦労であった」

 

 玉座にどっしりと構える身なりのいい男はレオナルドを労う。

 男がレオナルドに楽にするよう促すと、レオナルドは地面に付けた拳をさっと引いた。従う者と従える者の関係が明確に表れている。

 

 「して、ユールが五賜卿を退けたというのは本当か?」

 「はい、間違いありません。この目で見てまいりましたので」

 

 レオナルドの目は不思議な輝きを放っていた。まるでその眼自体に秘密があるかのように──。

 

 「そうか」

 

 玉座の男の言葉の節々からは、プレッシャーとは似て非なる重みが感じられた。あえてふさわしい表現を付け加えるなら、上に立つ者としての"覚悟"が備わっている。

 

 「勇者が居合わせたとはいえ、あの、小さな辺境の街がな……」

 

 男は不思議なこともあるもんだと言いたげに声を漏らす。それに対し、レオナルドは静かに同調した。

 

 濡れ髪の男──。

 レオナルド・ブラックスリーは、地質調査と輸出品目検査という名目でユールに派遣された視察隊員である。

 きのこ産業を中心に経済が潤い始めたユールを国が無視できなくなり、王都から派遣された視察隊の隊長こそが、なにを隠そうレオナルドなのだが、偶然にも彼は五賜卿(アルデンテ)に街が襲撃されているタイミングで街を訪れ、そのアクシデントに巻き込まれる形で緊急会議に出席した。

 

 

 上座、第三席 【王都視察隊隊長】

 レオナルド・ブラックスリー

 

 

 それが、彼に与えられた階級(せき)だった。

 

 彼は会議に出席しながら用意していた伝書鳩を用い、王都に五賜卿の情報を逐一飛ばす役割も担っていた。そんなレオナルドの目の前にいる人物は、直接それを読める立場にあり諸々の事情を把握している。

 となれば、レオナルドが帰還した場所はわざわざ言うまでもなく、身なりのいい人物は国の最高責任者である事が容易に想像つくことだろう。

 

 まさにその通り。レオナルドの前にいるのは、ユールをひとつの街として治める国の王、そのヒトなのだ。

 

 「陛下、既に理解しておられると存じますが、ユールが五賜卿を退けてより今日で三日──。そろそろ、ヤツらが動き出す頃合いかと」

 「ああ。間違いなく来るだろうな。五賜卿(ヤツら)の恐ろしい所は、逆恨みにも似た報復にあるのだから」

 

 レオナルドは険しい表情のまま視線を落とした。下手を打てば他人事では済まされない難しい問題に直面していた。

 

 「それで、どう思う」

 「どう思う、とは?」

 「レオナルド、お前の所感でいい。二度目の奇跡があの街に起きるように思うか?」

 

 陛下からの質問にレオナルドは呼吸を整えて慎重に応えた。

 

 「確率は、ゼロではありません……。ですが、厳しい状況には変わりありません。王都から遠征隊を派遣できれば少しは確率が上がるように感じますが……」

 「それも、今からでは間に合わんだろう。うーん。せめてもう少し早く気づいて、軍を向かわせておけば、違ったのだろうがなぁ……」

 

 腕を組む陛下を見て、レオナルドは前のめりに立ち上がり、静かに近付いた。

 

 「な、なんだ」

 「そう仰ると思いまして、とある部隊をユールに送りました」

 「……え? まじで、勝手に? だれよ?」

 

 予想外だったのか威厳もなく聞き返す陛下の目が点になる。

 

 「大地の騎士団(マセリットオルデン)です」

 「よりにもよってあの戦闘狂集団ンンっ──?!」

 

 驚きのあまり玉座から立ち上がる陛下。それをなだめるように「落ち着いてください」とレオナルドは言う。男が「落ち着いてられるか!」と言ったあと、レオナルドが言葉を重ねた。

 

 「戦いに飢えている状態の彼らがどれほど危険なのかは、陛下もご存知でいらっしゃるでしょう? このワタクシが愚考いたしますに、このままミヤコに放置しておくより、遠征に向かわせた方が彼らの気分も損なわないので幾分かマシかと」

 「それもそうだがなぁ……」

 

 王様にとっての予想外は二つあった。一つ目は部下が勝手に騎士を派遣させたこと。

 二つ目は『事前に解決済ですよ』とレオナルドにドヤ顔で言われたこと。

 

 おそらく、ここまでの会話の流れも誘導されていたのだろう。それを思うと王様はまんまと流された自分自身に少し腹が立ち、全く悪気なさそうにしているレオナルドに少しあきれた。

 

 「しかしぃ、勝手に送っていい理由にはならんぞ?」

 「申し訳ありません。急を要していたもので」

 

 陛下は皺だらけの額を不満そうに動かしながら、しぶしぶと言った具合に玉座に座り直し溜飲を下げた。

 

 「……まあ良い。お前のやる事はだいたい正しいからな。ユールに行くと言い出した時は何事かと少々ヒヤヒヤしたが、まさかあの時からこうなる事が読めていた訳ではあるまいな?」

 「まさか。ただの偶然でございます。遅かれ早かれあの街には、確認しなければならない事項が山のようにありましたから」

 「どちらにせよ、お前をユールに送ったことは正解だったようだな」

 

 陛下は両手を掲げパンパンっと二度叩いた。

 

 「【宵鏡(ヨイノカガミ)】と【曙鏡(アケボノノカガミ)】をここへ」

 

 陛下が声を上げて何かを要求すると、奥に控えていたメイドたちが四人で二枚の大きな楕円形の鏡を運んで前に出てきた。

 

 「これは……?」

 「まあ、みておれ」

 

 メイドたちは陛下の指示を受け、何の変哲もない鏡を土台に設置すると、二人のメイドが鏡の前に立ち、首にかけていた赤いペンダントと緑のペンダントをそれぞれの鏡に映した。すると、鏡の表面に波紋が何層にも重なって浮かび上がり、片方の鏡は黒く、片方は真っ白になって何も映らなくなった。

 

 「これは神技を作る簡単な技法だ」

 「ジンギ……?」

 

 説明を聞いて眉間のシワが濃くなるレオナルドの前に、突如、第三者の低い声が響く。

 

 ──(【宵鏡】とは、恐怖を象徴する〘夜のペンダント〙と真実を映し出す〘何の変哲もない鏡〙が組み合わさることで完成する、恐怖の正体を見破る神技のことを指している)

 

 周りを見渡すがメイドたちに男のような者は交じっていない。

 

 ──(反対に、〘朝のペンダント〙は安寧を象徴し、〘何の変哲もない鏡〙と合わさることで逆の意味合いを持つ【曙鏡】を造り出す。そうして、危険なものと安全なものを映しだす二枚の鏡が完成したという訳だ。【白夜剣(ビャクヤノツルギ)】、【明星勾玉ミョウジョウノマガタマ】と並ぶ、時の神技シリーズの二つ。私としては唯一、技に分類される点だけがいささか納得いかないのだがね)

 

 玉座の間全体から木霊し、つらつらと語る男の声にレオナルドは警戒を示した。

 

 「何者だっ。姿を現せ!」

 ──(そうか、失敬失敬。まだ名乗ってはいなかったね。驚かさせてすまない。私はとある学園でしがかい理事長をやらせてもらっている者だ。あいにくとそちらには出向けない事情があってね。念話にて失礼させてもらっているよ)

 「とある学園のしがない理事長サマが、我々に何の用だ」


 瞳をギラつかせて、今にも空間を切り刻んでしまいそうなレオナルドの姿勢を見て、陛下は楽しそうにそれを明かした。


 「ワタシが呼んだのだ」

 「陛下が……? 一体何者なんです」

 「聞いて驚くなよレオナルド。こやつは、賢者プロテクトだ!」

 「賢者プロ、テクト……ダ?」

 

 陛下はふんぞり返って交友関係を自慢するが、賢者の名前を聞いてもレオナルドにはいまいち刺さらなかった。

 

 「え、わかんない? ほら、ワニニャンコフって名前で作家活動もしてる賢者だよ……」

 「わわわわわわわわわわわわわわわわわワニニャンコフ先生ぇぇ?!」

 

 レオナルドは被せ気味にそう叫んだ。その名前は十分、いや、めちゃんこ突き刺さったらしい。


 ──(あまりその名で呼んで欲しくないのだがね)

 

 

 

〘お詫びと訂正、そしてお願い〙

 

 二つ以上の属性を重ねて創り出す魔法の事を2章後半では "二種混合魔法" と呼んでいましたが、正しくは "二種混成魔法" の間違いでした。

 申し訳ありません!m(。v_v。)m

 

 毎週読んでくれている友人に

 「前と違う」とご指摘を受けまして気付きました。友人よありがとう。

 今後こういう事が無いように、注意深く見ていこうと思います。それでも“ゼロ”に出来るかと言われるとその自信はありません…。(´σ¨_` )

 

 なので、そういった間違いや誤字脱字を見かけたらじゃんじゃん感想欄にコメント待ってます。ツイッターでもオケー! 質問でもオケー!(最近貰ってないから来たら嬉しい)お待ちしています。

 

 


 

 さて、次回は謎の人物、ワニニャンコフ先生がついにあばかれる!

 

 第一章から度々出てきたこの名前。覚えてくれてる人っているのかな……•́ω•̀)?

 なーんて不安も抱えつつ! しばらくは、この三人にスポットを当てていきます!


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