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第七十話 薫の笑顔は魔法の笑顔


 

 バラバラになった〝真心(ソギマチ)〟や鴨葱(カモネギ)の鞘を拾って容赦なく【惑星反射】でお片付けする薫。ちなみに威力はあまり抑えていないようで、飛んでく破片は世界中に散らばった。

 肉片や武器がありとあらゆる方角に飛んで行く中、黙々と作業を続ける薫の横顔を見て、ピタはハッと息を漏らした。

 

 ──あんな、凛々しい顔で肉片を……。そうか! あれが大人の余裕というヤツなのか……!

 

 「ピタちゃん」

 「はい!」

 「それとトメちゃんも」

 

 ピタは薫に話し掛けられた途端、背筋をぴんと伸ばし、頭上を突き抜けるような声で返事をした。続けて呼ばれたトメは、小さな少女のその態度に戸惑いながも薫の方を振り向いた。薫も二人の方を向き直ると一呼吸置き、真剣な眼差しで語り始めた。それはこれからの二人に贈る先輩からのメッセージ。

 

 「世界を救うのに年齢はさほど重要ではないと思いますが、それでも、アナタたちはまだ若すぎます。本当に、本当にどうしようもなく辛い時は、いつでも相談に乗るから、その時はいつでも遊びに来てね」

 

 少女たちの過酷な運命を(うれ)いる、慈愛に満ちた聖母の笑顔。瞬時に輝く少女たちの視線──。

 鼓動、夢、希望、全てが熱を帯び胸を熱くさせる。

 

 憧れの女性像を目の前に、彼女たちはまたひとつ強くなる覚悟をその胸に(つよ)く誓った。

 もう一つ、守るべき居場所が増えたから──。

 

 「「はいっ!」」


 薫の笑顔には能力では語れない不思議な力があるのかもしれない──。


~~~~~~~~~~~

 

 一方、薫たちから少し離れた場所では。

 

 「モテゾウ? 真心ぉ? おーい聞こえてるかぁ?」

 

 大地の裂け目の向こう側にいるはずであろう仲間に〝技術〟は今にも泣き出しそうな声で何度も呼びかけていた。

 

 「なぁ、……なぁて!」

 

 だが残念ながら返事は返ってこない。


 モテゾウに斬られて以降、頭と胴体が別々に別れた〝技術〟のソギマチには、向こう側で起きた出来事のほとんどが把握できる状況になかった。アンデッドであるため死なずに済んだのだが、モテゾウの【両断域】を未だに警戒し動けずいるので、表情がころころ変わるユイリーを観察し、なんとなーく状況が(かんば)しくない事を判断する。そう聞くとソギマチがスゴく冷静に対処しているように思えるが、単に、それしか出来ないからだ。むしろ本人は相当焦っている。

 大地がひび割れていることさえ知らないが、自分がピンチなのは理解し冷や汗が止まらない。依然として仲間からの返事はなく、不安ばかりが(つの)る一方、さらに恐ろしいモノを見て猫ミミ少女は震えあがる。

 

 ヒトノカタチ(・・・・・・)をした黒い流れ星が頭上を通ったのだ。惑星反射されたモテゾウだ。

 そんな事を知らないソギマチはガクガクブルブル怯えながら、顔が一気に青ざめる。

 

 「な、なんだよ今のはぁ……!? ヒトっ、ヒトが飛んでなかったかぁ……!? 返事してくれぇい……いるんだろぉ……? まごころぃ、モテゾウぉやー……」

 

 精神グズグズ大泣き五秒前といったところで、自分の上に落ちる影を見つけて、背後に誰かがいることに気付く。髪を引っ張るように持ち上げられながら、ソギマチは振り向いた。というより、勝手にクルーっと回ってその顔を見た。──見てしまった。

 

 見た事がある、忘れもしない恐怖のニヤつき顔。あれに似ている。あれの再来だった。

 

 「あ、可愛いお耳ー……食べちゃいたいくらい」

 

 目玉フルスロットル。

 ソギマチ、爆速(ノータイム)でチャンスゾーンに突入。

 黒目はグリんと裏返り、口からは盛大に泡が吹き出し気絶する。泡がコインだとすればまさにジャックポット状態である。

 

 「ユイリーちゃん、もしかしてこの子って、双子だったりする?」

 

 気絶した少女の猫ミミを容赦なくモフりながら聞く薫の姿に、ユイリーは若干引き気味で答えた。

 

 「さ、さぁ……。よく分かりませんが、確かに似てますね……その子たち」

 「そうよねそうよねっ。どうせ不死者(アンデッド)なんだし、一人くらい貰っても大丈夫よね!」

 「は、はぁ」

 

 ──ま、間違いなく、親子だ……。

 

 先ほどまでの真剣さがウソのように、頭だけの少女に頬擦りするテンションの高い薫を見て、ユイリーは、もう、似た者親子ってこと以外考えるのをやめた。

 

 謎の超理論で頭 (ペット?)を手に入れた薫だったが、その後──、さすがにそれは怖いだとかそもそも敵だとか周りから必死に止められ、なくなく荒野の彼方に頭を吹き飛ばした。一度ソギマチが気を取り戻す場面もあったのだが、薫の笑顔を見た途端、再び爆速気絶してしまったので、本人に意見を聞くこともままならないままお別れとなった。

 



 薫の笑顔には能力では語れない不思議な力があるのかもしれない──。

 


 

───────────


 

 

 薫たちの付近から程よく離れた何も無い荒野に、ポツンとひとり、少女が立っていた。

 明らかにやっばい不審者である。

 

 

 ~リズニアサイド~

 

 

 「あっれー? 確かこの辺だったと思ったんですけどー、ねー……」

 

 キョロキョロ、キョロキョロ。

 リズニアはあーでもないこーでもないと言いながら荒野の真ん中を右往左往している。

 

 誰よりものうてんきな彼女が探しているのは、先ほど第二防壁門付近で見た、ドーム状に広がる巨大な光の塊。第二防壁門の奪還をチャッチャと済ませたリズニアは本来、第三防壁門の方へと向かう手順のはずだったのだが、その予定は無事キャンセル。

 

 「うーん、迷いました。ですね」

 

 好奇心に負け、一直線に光を目指して走り続けていたはずなのに、気づけば迷子になってしまっていた。

 

 「ん、あれはぁ……」

 

 そんな彼女の前に黒い点がぽつりと現れた。荒野に浮かぶ謎の黒い点。正体は不明、ただし明らかに不自然。探していた光ではないが、意味不明すぎて妙に目に止まる。

 

 「ん……?」

 

 なんだかコッチに向かってきているように感じる。不自然レベルはそこにいる元女神と同じかそれ以上。

 

 「ん……んー?」

 

 前屈みになって睨むように眺めてみても、それが何なのか分からない。

 困ったように首を傾げていると点は大きな塊へと変貌を遂げ、リズニアに襲いかかって来た!

 

 

 「え、ちょっま──」

 

 

 黒い塊のこうげき!

 

 

 「──ぶべッふぉッッ!!」

 

 

 かいしんのいちげき。

 

 

 およそ元女神とは思えない効果音を吹き出しながらリズニアは黒い塊にカラダを貫かれた。

 

 

 リズニアはしんでしまった!

 

 

 ────。

 ──。

 

 

 ──ということはなく、黒い塊に押し込まれるように一緒に遠くへ吹き飛ばされた。勢いは相当凄まじいものだったらしく、リズニアと塊はしばらく地面をきりもみ状態で転がりまくった。

 

 「ぶっ、べっ、がらばっっっちゃ……! ……っ、いたたた……なんですか今のは……」

 

 頭と尻をさすりながら起き上がるリズニア。その後ろで黒い塊がもぞもぞと動き出す。

 生きている──というより死んでいたのが生き返ったような不気味さが目を覚ました。

 

 「うわぁ! なんですぅ!? あれなんですぅ!?」

 

 リズニアは長い距離を飛ばされてきたおかげで、荒野にある筈のない緑色の絨毯を発見し、思わず目が飛び出してしまう程にはしゃいだ。

 

 それまでの光のドームや、ついさっきぶつかって来た黒い塊の正体も、彼女の好奇心からすれば、もはや遠い過去の記憶。

 

 初めて見る光景に目の潤みMAX(マックス)

 気持ちばかりが前に出る!

 

 ちなみに黒い塊の正体はワシュウ・モテゾウ。彼がなぜ飛んできたのかリズニアは知らない。

 それに興味ZERO(ゼロ)

 記憶からもLOST(ロスト)

 

 全身の傷の修復が終わろうとする中、モテゾウが頭を抑えて立ち上がる。


~~~~~~~~~~~


 ──あれは……我が軍(アンデッド)か?

 

 緑の絨毯のようなものが変わり果てたアンデッド軍の姿であることにモテゾウは早々に気づいた。変色して見えるのは何かの間違いだと思ったのか、頭を激しく振ってはみるものの、変わるはずもなく再び頭を抱えた。

 

 ──もはや何が起きているのかさえ、考えるのも億劫だ……。だが、部外者に見られたのはまずい。……悪いが、死んでもらうとしよう。

 

 幸い離さずにおけたカタナを両手で握りしめ、最上段に構えると、モテゾウは忍び足でリズニアの背後に近づいてゆく。

 

 間合いに入り足を止めると、カタナが突然震え始めた。

 

 ──そうか、……お前も自分の不甲斐なさに震えているのだな。ならば、純然たる剣士であったあの頃のように、一刀で全てを断ち切ってやろう。

 

 これまでの汚名を払拭するかのように男は強く地面を踏みしめた。

 

 ──血に飢えし鴨葱の糧となぇぇえ……!!

 

 薫を斬れなかった鬱憤を晴らすように全力の殺気を込める。たぶん、それがいけなかった。

 


 ドスっ──。

 


 振り下ろされた懇親の一撃をリズニアは瞬時に(かわ)し、そのまま懐に入って男の鳩尾(みぞおち)に肘鉄をめり込ませた。

 

 「ガっ…ガガ……ガフッ……」

 

 腹に強打を食らうのは本日二度目、いや三度目。修復しているとはいえ腹への激痛も三度目となると耐えきれず、手から鴨葱はこぼれ落ち、モテゾウは腹を押さえてうずくまった。

 

 「ありゃ? どうしたんですかおじいさん。こんな所で徘徊してたらあぶないですよ。ユールはあの辺です。ひとりで帰ってくださいね。私は忙しいので、それじゃ!」

 

 ひとしきり喋るとリズニアは猛スピードで駆けていった。どうやら、自分が肘鉄を食らわせていたことに気付いていない。

 変な汗は出るのに声は出ない男が、その後ろ姿を見届けながら静かに倒れた。狭まる視界を必死にこじ開けながら、悲壮感溢れる声を響かせる。

 

 「この街には……出鱈目(でたらめ)な奴しか、おらぬの……か……」

 

 パタリと意識が途絶えて以降、男の意識が戻ることはしばらくなかった。

 

 

 

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