表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とボクの日常攻略  作者: 水無月龍那
課題3:僕とボクの体調管理
15/43

課題3:僕とボクの体調管理 3

グロテスクな表現が含まれています。苦手な方はご注意ください。

 部屋に戻って、僕は盛大に溜息をつく。


 今日は昨日ほど上手く誤魔化せなかった。

 明日はきっと、もっとできないのだろう。

 夢を見て。目を覚まして。

 朝、耐えられるだろうか。

 この苛立ちを。不安を。よく分からない感情を。

 自暴自棄になってぶつけてしまったりしないだろうか。


「正直……自信ないなあ……」


 彼女には何の非もないのだ。血をもらうと言ったのは僕だし、それに混じっていた呪いの話を聞いても

「気にしないで」と彼女に言って聞かせた。

 だから。僕がどうにかしなくてはならない。


 ――他の血で、薄められたりするのだろうか。


 いいや、と首を横に振る。

 その可能性はきっと低い。これまでも混じり合っているはずなのに、これだけの存在になっているんだ。


「どうしたら……いいんだろう」


 夢の相手の話を聞けば良いのだろうか?

 問いかけてみれば良いのだろうか?

 どうすれば。

 なんて考え込んでいるうちに睡魔が訪れる。時計は日付を変えたばかりだった。

 ベッドに転がると、すぐに瞼が落ちた。

 最近、夜の眠気が早い。朝の疲れだろうか。

 僕の意識はすぐに沈んでいく。

 

 そして――夢を見る。

 

 □ ■ □

 

 あの茶色い瞳は、相変わらず僕そっくりの姿で目の前に居た。

 僕は何も言わない。いつも通り、喋りだすのは茶色の僕だ。


「彼女はね。私の宝物なんだ」

「――なんで」


 僕の言葉に、彼の言葉が止まった。

 僕自身も、自分の言葉に驚く。

 そうか、発言できたんだ。夢の中で主導権を握ろうなんて考えたことなかったけど、やろうと思えばできるもんだ。


「ずっと共に在った。私が、傍に居たんだ」


 けれども答えは変わらなかった。答えにもならない回答だった。


「私の宝物なんだ」

「答えになってない」

「そうかい? これはこれで、十分な理由だと思うが」


 彼は不思議そうに言う。


「ずっと一緒に居たから宝物だ? まるで物みたいな扱いだな」

「物――そのような事はないよ」


 彼は続ける。


「長い時間を共にした。だからこそ、何物にも代えられない大事な存在なんだよ。物のように扱ったことなど一度もない。むしろ、私が彼女に利用されていると言った方が正しい」


 それはきっと、しきちゃんが言っていたことだ。

 彼女を解放する代わりに、その血で彼女の居場所を縛り付ける。

 確かにそれで彼女は自由を得た。

 自由のために彼の血を使っている、と言えるのかもしれない。けれども。


「……でも、それに僕を巻き込むのはちょっと、勘弁してくれないかな」


 僕の言葉で。口元が、にやりと吊り上がった。


「それは。無理だな」


 くつくつと笑いながら彼は言う。

 一歩。

 彼が踏み出し、距離が詰まった。

 すっと指が差し出され、僕の胸元にとん、と刺さる。

 目を伏せ、口の端を上げる。


「随分根付いたね」

「……」

「私はもうここから離れられないし、これはまたとない機会。約束もしたしね。みすみす手放すことなどできないよ」


 彼の目が、僕を真直ぐに見る。

 相変わらず、茶色いのに底の見えない色。


「だが、彼女は誰にも渡したくない。勿論、君にもだ」

「何度も言ってると思うんだけど」


 彼女は僕の物じゃない。そう言っても、彼は首を横に振った。


「私も何度も言っている。私にはそうは見えないんだ」


 彼の手が僕に伸びる。それを力一杯払いのけると、腕が飛んだ。

 どさ、と折れ飛んだ腕を一瞥して、彼は呆れたような顔をした。


「君。その力任せの行動は良くないよ」

「残念だけど……僕、元々そんなに我慢強くないんだ」


 彼はああ、と頷いた。


「今は随分丸くなった。か。そういう事だね」


 丸くなった。まあ、そう言われればそうだろう。頷くと、彼はくつくつと笑った。


「そうか。でも――まだ丸くなり切ってないようだ。ほら」


 そう言うと目の前の僕がずるり、と崩れた。

 

 胸に穴が空き、首が落ち、心臓が転がる。

 腹部が裂けて。頭が割れて。血のような涙を流し。足元から崩れ落ちたその姿は。

 僕がこれまで夢の中で、彼を否定し続けた結果の全て。

 

 落ちた首がにたり、と笑う。嗤う。


「私をここまでボロボロにするなんて――なあ」

「――う」


 目の前の光景に思わず目を背ける。そんな資格なんてないんだろうけど。そんな姿になってまで笑う顔だけは、直視できなかった。


「彼女は私の宝物だ」


 いつもと同じ言葉を繰り返す。


「丸くなったなんて幻想だよ」

「う――る、さい!」


 耳を塞いでも、言葉はその手をすり抜けて入ってくる。


「君は変わらない」


 私もまた然り、と声がする。


「私はずっと、変わらないよ。彼女は私の大事な宝物だ。だから誰にも渡さない。それは君も――」

「私も、そう、思っている――」


 僕の口から、そんな言葉が零れた。

 いいや、僕の言葉じゃない。これは、彼の言葉だ。


「そんな事はないよ」


 声がする。


「君も私と同じように思ってる証拠さ。私の言葉に共感する所があるから、そうも簡単に言葉を乗っ取られる」

「違う! 僕は、ただ――」

「違わないね。ほら、明日の朝が楽しみだ」


 ぐ、っと言葉が詰まった。

 明日の朝。僕が目を覚ましたら。どうなるんだろう。

 寝る前に抱いていた不安が僕の膝を崩す。


「楽しみだね」


 ぎり、と歯を鳴らして言葉だけは堪える。何か言えばすぐにその言葉を乗っ取られるのではないか。そんな恐怖。

 僕の意志ではない言葉。けれども彼は、それこそ僕の意志だという。

 違う。否定したい。だが、口を開くのが怖い。

 言葉を飲み込んで喉で押さえつけている僕に、彼はバラバラのまま頷いたようだった。


「うんうん。堪えるだけ堪えるが良いよ――ああ。楽しみだ」


 後どれくらい耐えられるだろうねえ。

 そんな言葉を最後に、ふつり、と。

 視界が真っ暗になった。

体調管理もできていなければ自分もうまく管理できなくなっている。

大丈夫かむつき。


夢の中では自分の意志で動ける人と動けない人がいるそうで。

自分はちっとも動けません。夢だと認識してもそれ以上がない。

一方、母は自由自在だと言ってました。母の謎が深まります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
なんだかどんどんむつきくんの精神が侵食されているように思います。 このままでは絶対に良くないけど、対策がまったくわからない状態で、このままどうなってしまうのか……とても心配です(。>_<。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ