表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アフター・テイルズ・クエスト  作者: 狛犬太郎
第一章 パーティ結成編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/8

8話 欲望は海の底へ

 ザッコスシティの夜は更けて。

 街の中心にそびえ立つ成金趣味の『ザッコスシティ町長館』の最上階・町長執務室は、異様な熱気と静寂に包まれていた。


「むーッ! むーぐ、むーッ!!」


 豪華な革張りの椅子にこれでもかと頑丈なロープでグルグル巻きにされている小太りの男がいた。

 この街の絶対権力者、ザッコス町長である。

 口に白い布の猿ぐつわを嵌められた町長は脂汗を流しながらイモムシのように激しく身悶えしていた。


 その対面。

 ジークは高級なオーク材のデスクにゆっくりと腰を掛け、不敵な笑みを浮かべながら静かに足を組んだ。


「……なぁ町長。そんなに暴れるなよ。ロープが擦れて痛むだけだぞ?」


 ジークがパチンと指を鳴らす。

 それを合図に、町長の背後に音もなく佇んでいたメアが気だるげにその白い指先を突き出した。


 ゴォッ!!!!!


「ひ、ひぃっ!?」

 猿ぐつわ越しに町長が短い悲鳴を上げる。

 メアの指先から放たれたのは触れれば骨まで灰にするであろう禍々しい漆黒の魔炎。

 それを町長の後頭部スレスレで「いつでも燃やせるわよ?」と言わんばかりに弄んでみせたのだ。

 もちろん、一発屋のメアが今ここで本気を出せば町長館どころかザッコスシティが消し飛ぶため、これはただの「魔力をチロチロ燃やすだけのハッタリ」なのだが、事情を知らない町長からすれば生きた心地がするはずもない。


 恐怖で完全に硬直した町長を見下ろし、ジークは静かに語りかけた。


「いいか? 今からその猿ぐつわを外してやる。だが、もし大声を出したり、衛兵を呼ぼうとしたりしてみろ。後ろの彼女の機嫌が損なわれて、お前の頭がオシャレな消し炭にリメイクされることになる。……騒がないと約束するなら、頷け」


 町長はちぎれんばかりの勢いで何度も激しく縦に首を振った。


「よし」

 ジークの合図でノイがナイフを使って手際よく猿ぐつわを切り落とす。


「ぷはっ……! げほっ、ごほっ!!」

 ようやく呼吸の自由を得た町長は激しく咳き込みながらも、涙目でジークたちを睨みつけた。


「お、お前たちは誰だ……!? 一体、何が目的でこんなことを……! 金か!? 金なら地下の金庫に――」

「いや、金も欲しいけど、目的はもっとデカい」


 ジークは身を乗り出し、意地の悪い笑みを浮かべた。


「単刀直入に言う。――この街を、俺たちに乗っ取らせてくれ」

「……は?」


 町長は呆然と口を開けた。

「街を乗っ取る」という単語のスケールが大きすぎて脳の処理が追いついていないようだ。


「勘違いするなよ。お前を殺して俺たちが新しい町長になる、なんて面倒なことはしねえ。お前は今まで通りこの街の『町長』の椅子に座ってろ。ただ――その背後に俺たちが黒幕として君臨する。そういう構図だ」


 ジークはトントン、と地図の町長室を指先で叩いた。


「俺たちの主な目的はとある人物たちに関する『情報収集』だ。具体的には世界を救ったとか抜かしている大英雄『桃太郎』、それと、そのお仲間であろう『ヘンゼルとグレーテル』。このへんの情報を街の権力を使って徹底的に集めてほしい」


「も、桃太郎……!? なぜそんな大物の情報を……」

「お前が知る必要はねえよ。とにかく俺たちの指示におとなしく従ってお飾りの町長として働いてくれれば……そうだな、これまでの街の税収の『20%』をお前の取り分としてそのまま山分けしてやる。どうだ? 命が助かる上に座っているだけで大金が転がり込んでくる。悪くない取引だろ?」


 ジークの提示した条件に町長は恐怖に震えながらも、その小さな目をギロリと光らせた。

 さすがは人間の街で町長にまで上り詰めた男。

 危機的状況であるにもかかわらず、その脳細胞は一瞬で「損得勘定」を始めていた。


「に、20%だと……!? ふざけるな、この街を維持するのにどれだけの経費がかかると思っている! 衛兵の給与、施設の管理費、国への上納金……! 最低でも『50%』は貰わねば、街の運営など立ち行かん!」


「あァ!? 5割だと!? 人質の分際で足元見てんじゃねえぞクソハゲ!」

「ハゲとは何だ! 髪型は関係ないだろ! ならば『45%』だ!」

「だめだ、出せて『25%』!」

「それじゃあ私が破産する! 間を取って『40%』でどうだ!」

「ふざけんな、一歩も引いて『30%』が限界だ!」


「ひ、ヒリつく交渉ですねぇ……! 脳汁が耳から垂れてきそうです……!」


 部屋の隅でだらしなく衣服を着崩したルーイが、サイコロをジャラジャラと弄りながら興奮で顔を上気させている。


「……じゃあ、こうしよう。――『35%』だ。これ以上は譲らねぇ。嫌なら後ろの魔女にお前の資産ごとこの部屋を吹き飛ばす」

 ジークは冷徹な声で言い放ち、親指で後ろのメアを指差した。

 メアがフッと冷たい笑みを浮かべ、黒い炎の火力を少し上げる。


「う、うぐぐぐ……っ」

 町長は歯ぎしりをしながら、35%という数字を頭の中で必死に計算している。


 ジークは首だけを少し後ろにひねり、部屋の隅にいるルーイへと視線を送った。

(おいルーイ。ギャンブラーの目から見て、『35%』ってどうよ?)

 目でそう問いかける。


 アイコンタクトを受けたルーイはニヤリと八重歯を覗かせて小さく頷いてみせた。

(ジークさん、落としどころとしては充分すぎますよ。胴元の取り分としては上出来です)


 そんな無言の合図を交わし、ジークは再び町長へと向き直った。

「どうだ、町長。これ以上の交渉は命に関わるぞ?」

「……わ、分かった。35%で手を打とう……! その代わり、命の保証と、対外的には私の面子を保ってくれ!」

「ああ、交渉成立だ。お互い良いビジネスパートナーになれそうだな」


 ジークは邪悪な笑みを浮かべ町長のロープを解いてやったのだった。


 数日後。


 ザッコスシティの支配権を裏から完全に掌握した人外パーティーだったが、その後の動向はあまりにも自由奔放だった。


「うひょぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!! 予算潤沢! 設備最高! 新しい研究が捗るわぁぁぁ!!」


 町長館の地下倉庫を勝手に改造した特設ラボでは、メアが狂ったように高笑いを上げていた。

 ギィィィィィィーーーーン!!! バチバチバチッ!!!

 激しい機械音や溶接の火花が昼夜を問わず響き渡り、明らかに一国の軍隊を壊滅させるレベルの不穏な兵器が量産されつつあった。


 一方、街の繁華街では――。


「さぁさぁ回した回した! 丁か半か! 弾くなよ、脳汁出せやァァァァ!!」


 ルーイが町長の権限を悪用し、街の一等地に勝手に巨大な賭博場を建設。

 自らディーラーとしてギャンブルに興じていた。

「おいクズタヌキ、お前また犯罪やってんじゃねえだろうな!?」とジークが問い詰めた際、ルーイは「失礼な、私が最高権力者のバックなんですから、私が建てた賭博場は『合法』なんですよぉぉぉぉ!」と謎理論言い張り、堂々と胴元として暴利を貪っていた。


 そんなポンコツどもを他所に、ジークとノイは町長直属の役人や税務署の調査員たちをフル稼働させ街全体に大規模な情報網を張り巡らせていた。


 そして本日。

 集まった報告書の束をジークとノイは町長執務室のデスクで広げていたのだが……。


「……なぁノイ」

「なんだ、ジーク」

「『東の森で上質な薬草の群生地を発見』。……次、『西の街道で野生のゴブリン3匹を討伐』。……次、『近所のタナカさんの家の猫、無事に発見』」


 ジークは報告書を机に叩きつけ、深くため息をついた。


「クソみたいな情報しか集まらねえ!! なんだよタナカさんの猫って! 知るか!!」

「まぁ仕方ないだろ。ここは初心者の集まるザッコスシティ。集まる冒険者も役人もレベルが低すぎる。国家機密や大英雄の動向など最初から誰も知らんのだろう」


 ノイが腕を組んで冷静に指摘する。

 確かにその通りだった。

 街を乗っ取って情報網を敷くところまでは完璧だったが、そもそも集まる情報の「質」がザッコすぎたのだ。


「あーあ、次はどうすっかなぁ……。この街の限界が見えちまった以上、もっとデカい大都市に拠点を移すしかねえか……」


 ジークが頭を抱えて悩んでいる、その時だった。

 ガサゴソと、執務室の奥にある町長専用の隠し金庫から不穏な音が聞こえた。

 見ると、いつの間にかタヌキ姿から戻ったルーイが金庫を勝手にあさっている。


「おい、お前は黒幕の特権を私物化するな」

「いやぁジークさん、面白いものを見つけましたよ!」


 ルーイはジークのツッコミを無視して金庫の奥から「見るからにめちゃくちゃ豪華な装飾が施された箱」を両手で抱えて持ってきた。

 金色の金具に、散りばめられた真珠。

 どう見てもただ事ではない代物。


「これ、何ですかね?」

 ジークは、部屋の隅で小さくなっていた町長の胸ぐらを掴んで引きずり出した。

「おいハゲ。これ、何の箱だ?」

「ひっ、それは……! 私が今年のバカンスのために全財産をはたいて闇ルートから手に入れた大切にとっておいた宝物ですぞ……!」

「いいから中身を言え」

「か、海洋都市……通称『竜宮城』への、超プラチナ特級招待券です……!」


「……竜宮城?」

 ジークが眉をひそめた瞬間、ルーイの耳がピクンと跳ね上がりその目がランランと輝き出した。


「おぉっ!? 竜宮城! 知ってますよ私! 海の底にある、世界中の富豪が集まるという伝説の海底巨大都市!」


 ルーイはサイコロをジャラジャラと鳴らしながら早口で噂を語り始めた。


「そこを統治するはこの世で一番の美貌を持つと言われる絶世の美女――『乙姫』! 彼女に気に入られた男は一生遊んで暮らせるほどの富と、最高の夜を約束されるとか、されないとか……!」


 ガタッ!!!!


 凄まじい音を立てて、ジークとノイが同時にデスクを叩いて立ち上がった。

 二人の目が肉食獣のごとくギラリと血走っている。


「……おいノイ。今、なんて言ってた?」

「『この世で一番の美貌を持つ絶世の美女』、と言ったな……ジーク」

「行くしかねええええええええええええッ!!! 拠点とか情報とかどうでもいい! 乙姫に会いに行くぞ!!!」

「我が魂の伴侶は深海にいたか!よぉぉし!突撃だ!!!」


 さっきまで情報網の限界に悩んでいたシリアスな空気は一瞬で霧散した。

 男二人の欲望のエンジンが、限界突破で火を噴いている。


「おいルーイ! 地下のラボからあの引きこもり魔女を今すぐ引っ張り出せ! 道具をまとめる暇もねえ、すぐに出発だ!!」

「アイアイサー! 脳汁の匂いがしてきましたねぇ!!」


 こうして脱税犯から街の支配者へと成り上がった人外パーティーは乗っ取ったばかりの街を放置して新たなる欲望の地「竜宮城」へと向かうのだった。


【パーティーは 海底の 楽園へと 目を向けた!】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ