2 義理の姉を愛している?
「ミアーナさん! ごきげんよう! いつの間にいらっしゃっていたの?」
「つい先程です。それよりもロマ様、元気のないご様子ですが、体調が悪いわけではないのですよね?」
「ええ。体調は良好なの。だけど……」
ミアーナの手を握って話しだそうとしたロマは、ぴたりと動きを止めた。今日はミアーナだけじゃないことを思い出し、慌てて立ち上がる。
「マーベリック様もいらっしゃっているのですよね」
「あ、はい。後ろに」
ミアーナが苦笑してロマの背後を手で示すと、すごい勢いで振り返った。
「久しぶりだな。体調が良好なのは良かったが、それならどうしてさっきまで生気のない姿だったんだ?」
「ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございません!」
「悪気がなかったのだろう。それにここは公の場じゃない。そこまで気にしなくていいから頭を上げてくれ。それよりも悩み事があるようだが、俺も一緒に話を聞いていいのか」
頭を下げたままのロマにマーベリックが問いかけると、彼女はゆっくりと顔を上げて首肯する。
「もちろんです」
「とにかく席を移動しましょうか」
三人であれば並んで座るよりも向かい合ったほうが聞きやすいと思ったミアーナは、ロマの手を取り、テーブル席へと移動した。
ロマの向かいにマーベリックが、隣にミアーナが座った。
侍女が気を利かして頼んでいた温かい紅茶が運ばれてきたので、三人はとりあえず一息ついた。
「ミアーナさんから聞いているかもしれませんが、最近、良いなと思った男性が現れたんです」
このことは手紙で色々と聞いていたが、言いふらす話ではないと思い、マーベリックには伝えていなかった。
「そうか。そんな話は聞いていなかったが、良い男性が見つかったのなら本当に良かった」
マーベリックが口元に笑みを浮かべると、ロマは勢いよく首を横に振った。
「違うのです! 駄目だったのです!」
「「駄目?」」
「ええ! こんなの詐欺です。酷いですわ」
落ち着いたと思っていたロマがまた取り乱し、ミアーナの腕に顔を寄せて泣き始めた。
(ロマ様がこんな風になるなんてよっぽどのことよね)
「ロマ様、お話を聞きますし、私たちで何とかできるものなら尽力いたします」
「そうだ。とりあえず話してみてくれ」
マーベリックとミアーナに背中を押されたロマは、ミアーナの腕に顔を寄せたまま話す。
「お、お相手はっ、伯爵家のっ、ご子息なのですがっ、お姉様がいらっしゃってっ!」
「伯爵家? 俺たちの年代的に婚約者がいなくて姉がいるのは、あの家か」
マーベリックは子爵家以上の貴族については顔と名前を一致させるだけでなく、家族構成や交友関係も把握している。そのため、ロマの相手の名は彼女に言われずともわかったようだった。
ミアーナもロマの相手に姉がいることは知っていたが、特に問題ないと思っていた。しかし、マーベリックの顔色が変わった。
「まさか」
「そうです! そういうことなのです!」
ロマはマーベリックが何も言っていないのに肯定した。嫌な予感が大きくなっていくことを感じつつ、まったく意味が掴めないミアーナが尋ねた。
「あの、何がそういうことなのです?」
「彼女の婚約者には姉がいる。だけど、たしか養女だ」
「……ま、まさか」
ミアーナは顔を引きつらせてロマを見つめた。
「ううっ。せ、先日、正式に彼と婚約が決まったのですがっ、彼はっ、私にこう言ったのです!」
「「義理の姉を愛している?」」
ミアーナとマーベリックの声が重なった。
「そうです! そうなのです! 信じられませんでしょう⁉ 姉が誰かと結婚することになっても同じ家に住むと言い出したのです! そんなに姉が好きなら、姉と結婚すればいいではないですか!」
ロマの絶叫が個室に響き渡った。
「ロマ様、落ち着いてください。今はまだ公に発表していない状態でしょう? 向こうの有責で婚約を解消しましょう」
「そうだ。契約を結んでからそんな話を出すのは良くない」
それから一時間以上にわたり、ミアーナたちはロマを慰めた。そして、冷静になったロマはミアーナたちにこんな話をした。
「貴族の男性を代表して言うが、男の浮気を認められないなんて器の狭い女性だと。しかも、浮気する男性は悪くない。浮気される女性が悪いと言われたんです。マーベリック様、男性は皆、そう思っているものなのでしょうか」
「そんなわけがないだろう。そう思っている奴のほうが少数派だ。勝手に代表になられても迷惑だし不愉快だ」
マーベリックは眉間に皺を寄せて即答した。
「実は、お父様は昔、若い頃に一度だけ浮気をしたことがあると、お母様から聞いて相談できなかったのです。マーベリック様にそう言っていただけて、心が軽くなりました」
(ロマ様が男性不信にならなければいいけど……)
ロマのことを傷つけた伯爵令息が許せないと感じたミアーナは、マーベリックに話しかける。
「マーベリック様、近々、夜会を開く予定はありませんか?」
「夜会?」
聞き返したマーベリックだが、ミアーナの意図に気がつき微笑む。
「そうだな。色々と情報交換は必要だ。近いうちに公爵邸で夜会を開催しよう」
「ありがとうございます! ロマ様、日時が決まり次第ご連絡いたしますので、ぜひとも婚約者の方と出席してくださいね」
「……わかったわ」
ロマは不思議そうにしつつも了承した。
(ロマ様を傷つけるなんて許せないわ。さあ、自称男性代表のために、破滅へのスピーチ会場を用意して差し上げましょう)
口には出さないが闘志を燃やしているミアーナを見たマーベリックは、自分たちの結婚の話はまだまだ先になりそうだと思った。
しかし、そんなミアーナだからこそ好きになったのだと自覚している彼は、がっかりする様子は見せないどころか、彼女を愛おしそうに見つめた。




