41 対策を立てておこうと思います
バンハとの話をするためにガゼボを借りたいとラゲクに頼むと、マーベリックを同席させるならかまわないとのことだった。
「フラティナさんとのことを話したくて来ると思うのです。マーベリック様がいらっしゃったら、スココ男爵は話をしないと言うかと思うのですが……」
「では、二人きりで話すつもりなのか?」
「ガゼボなら話が聞こえない距離で、騎士に見てもらえるかと思いまして」
「それでも駄目だ。いいか、ミアーナ。お前は私の義理の娘ではなくなったが、その時よりも大事に思っている。それに何かあっては、お前の両親に申し訳ない」
(ロコッド様たちが原因とはいえ、ミュークド公爵家の家族を壊したのは私だから、こんな風に言ってもらえるなんて思わなかった)
微かに眉尻を下げたラゲクの気持ちに感謝して頷く。
「承知いたしました。では、お言葉に甘えさせていただきますが、マーベリック様にはご迷惑ではないでしょうか」
「迷惑ではないだろう。あいつだって君を大事に思っているだろうからな」
ラゲクの言う通り、マーベリックはミアーナがバンハと話をすると言っただけで「俺も同席させてくれ」とミアーナに願った。
「どうして付き添ってくださるのです?」
「君なら大丈夫だと思うが、どうせ気になって何も手につかないだろうから」
「あ、ありがとうございます」
ミアーナはドキドキする胸を押さえて深呼吸したあと、マーベリックに尋ねる。
「ラゲク様にもお話はしたのですが、スココ男爵が私と二人きりで話をしたいと言い出したらどうしましょうか」
「それなら大丈夫だ。コレン殿下から話を聞いたと言うつもりだ。君が言いふらしたなんて思われても困るからな」
「……ありがとうございます」
マーベリックの前ではいつもの調子が出ないミアーナは、自分の頬を軽く何度か叩く。
(スココ男爵がどんな馬鹿なことを言ってくるかわからないわ。気を引き締めなくちゃ)
ミアーナの様子がいつもと違うことに気がついたマーベリックが尋ねる。
「どうした?」
「相手が何を言ってくるかわかりませんし、対策を立てておこうと思います」
ミアーナは微笑むと、マーベリックへの気持ちが自分の恐れているものにならないよう、いつもの自分を取り戻すことに決めた。
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バンハが訪ねてきた日は、朝から良い天気で、庭園に咲き誇る色とりどりの花々も生き生きとしており、ミアーナを楽しませた。
「あの、どうしてマーベリック様がいらっしゃるんですか?」
ガゼボに通されるまでは男爵という立場にも関わらず、偉そうな態度をとっていたバンハだった。だが、マーベリックの姿を確認した途端、驚いた顔をして尋ねた。
「未婚の男女を二人きりにさせるわけにはいかないだろう?」
「そ、それは、その、そうかもしれませんが、ボクとミアーナは一時期とはいえ婚約をしていたんです。二人きりで会うくらいは良いでしょう?」
「婚約をさせられようとしただけで、実際はしていませんわね? スココ男爵、今日のご用件はどんなことでしょうか。婚約をお断りさせていただいたことで、あなたのプライドを傷つけてしまったのであれば謝罪いたします。申し訳ございませんでした」
ミアーナが頭を下げると、バンハは首を横に振る。
「そのことで話がしたかったわけではないんです。ボクが知りたいのはあのことを義姉に話したのではないかと言うことです!」
バンハは自分とミアーナの間にある白いテーブルを叩いて訴える。
「あなたのせいでボクは兄や義姉との関係が悪くなった! どうしてくれるんですか!」
「私のせい?」
聞き返したミアーナの目と口調は冷たく鋭いもので、バンハはびくりと体を震わせた。
「そ、そうです。その、二人がボクに冷たくなって……。あなたが何か言ったんでしょう?」
「そうですわね。フラティナ様には悩んでいらっしゃることがありました。ですから、その悩みをご主人に話すべきだとお伝えしました」
「どうしてそんなことを! 人の家庭を壊して何が楽しいんですか!」
バンハは立ち上がり、興奮した様子で続ける。
「ボクたちは上手くいっていたんだ! あなたが余計なことを言ったから、三人もの人間が苦しむことになったんだ!」
「ちょっと待ってくれ」
マーベリックが挙手すると、バンハは急に大人しくなり、すとんと椅子に腰を下ろした。
「ミアーナは悩みを夫に伝えるように言っただけだろう。何かがあったから夫人は悩んでいた。その悩みとはなんだ? スココ男爵、あなたに関係のないことだと、自信を持って言えるのか?」
「えっ」
バンハはびくりと体を震わせ、怯えた目でマーベリックを見つめた。




