30 受けて立ちましょう
各々の準備ができ次第、エントランスホールで落ち合うことに決まった。
マーベリックは外出着に着替えてくると言うので、ミアーナも部屋に戻って外出の準備をすることにした。
(家族が一気に離婚だなんて、こんなことって社交界の中でも前代未聞のことなんじゃないかしら)
そんなことを思いながら、ミアーナは支度を終えて、エントランスホールに向かった。急いで準備したからか、まだマーベリックたちの姿は見えない。
外の空気でも吸おうかと、屋敷の外に出た時だった。
「ちょっと! 放して! 私を誰だと思っているの⁉ 私にこんなことをするなんて絶対に許さないから!」
ルイティーの叫び声が聞こえてきたので目を向ける。すると、ロコッドと同じようにロープでぐるぐる巻きにされたルイティーが、今まさに木に吊り下げられようとしていた。
ロコッドは未だに助けられておらず、彼の隣の木の枝にルイティーが吊り下げられると、ロコッドが叫ぶ。
「ルイティー! 大丈夫か⁉」
「大丈夫じゃないわよ! ロコッド! こんなことになったのはあなたのせいよ!」
「何を言っているんだよ! 僕の気持ちを受け入れたのは君じゃないか! それよりもルイティー! 僕が追い出されることになったら面倒を見てくれないか?」
「面倒を見るわけがないでしょう! お父様とお母様にこっぴどく叱られるに決まっているわ! 帰ってくるなと言われたらどうしよう! 頼みの綱はお兄様だけど、ああ、お兄様は助けてくれるかしら!」
こんな状況になってしまうと、二人とも、浮気していたという事実を隠すつもりはなくなったようだった。
両陛下はルイティーをそこまで甘やかしてはいなかったが、兄である王太子は彼女を猫可愛がりしていると聞いたことがあった。
(悪いことを正したとはいえ、相手は王女様だから、私は王太子殿下に目をつけられるかしら。そうなると面倒だわ。だけど、悪いのはルイティー様とロコッド様だわ。両陛下もルイティー様の味方にはならないでしょうし、その時は世論を味方につけて受けて立ちましょう)
「お二人とも大人しくしてください!」
少し離れた所で様子を見守っていた兵士がそう言いながら二人に近づいていく。そして、わざと揺らしているのを見たミアーナは、兵士たちにストレスが溜まっているのではないかと思い、少しだけ心配になった。
ロコッドたちをぼんやり眺めていると、マーベリックが外にでてきた。ロコッドと並んでぶら下がっているルイティーを見て、一瞬驚いた顔をして動きを止める。ミアーナと共に暫しの間、ロコッドたちを眺めてから、マーベリックは口を開いた。
「二人が浮気をしているとわかった時から、ああしようと考えていたのか?」
「さすがにここまでは考えていませんでした。もっと敬意を払うつもりでおりましたよ」
「ということは、我慢できなくなったということか」
「これくらいしないとわからない方たちだということに気がついたのです」
ため息を吐いたミアーナに、マーベリックは苦笑して尋ねる。
「今まで他の誰かにしたことはないんだよな?」
「もちろんですわ。ここまで話が通じなかった方はいませんもの」
「それもそうか」
ルイティーとの交渉に苦労したマーベリックはしみじみ頷く。
「戦場ではお互いの主張が合わなくても、話し合いをすることは可能だった。だから今回は上手く和平に持ち込めたが、彼らのように自分の主張しか通す気のない人間と交渉するには、普段以上に頭を使わないといけないんだな」
「頭を使うといいますか、多少は乱暴な手に出てもいいのかと思いました」
話をしているうちにラゲクがやってきた。合流したミアーナたちは、三人で役所に向かい、離婚届けを提出した。役所の職員はかなり驚いたものの、書類に不備がないことを確認して受領したのだった。
無事に離婚が成立した帰りの馬車の中は、晴れやかなムードが漂っている。
(まさか、こんなことになるとは思っていなかったわ)
向かいに座るマーベリックとラゲクを見つめ、ミアーナはそんなことを考えた。




