表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/193

第90話:運命の抽選会 ― 鳴門の渦に集う六人の修羅 ―

 ボートレース鳴門の象徴であり、からくり競艇のエネルギー源でもある**「万魂石ばんこんせき」**。それは単なる巨大な結晶体ではない。

* 衆望の受信機:

万魂石は、世界中の観衆が放つ「衆望しゅうぼう」、すなわち期待、興奮、そして的中への渇望や負けた者の怨嗟といった多種多様なマブイをリアルタイムで受信・蓄積する。この膨大なエネルギーが、各艇の「マブイ・コア」を介して機獣の出力へと変換されるのだ。

* 鳴門の封印:

かつて鳴門の激流には、敗北したレーサーたちの無念や、制御不能となったマブイの残滓が沈んでいた。万魂石はそれらを浄化する「重石」として設置された。しかし、誠の『黒影』は、この石が封印していた「負の記憶」を直接引き出す鍵となってしまった。

* 変色の意味:

石の色はフィールドの倫理を映し出す。清廉な勝負なら「白銀」に輝くが、現在の万魂石は、誠の変貌に呼応するように不気味な**「紫黒しこく」**へと変色し、脈動を繰り返していた。

 2029年5月12日、夜。

 予選3日目が終了し、鳴門競艇場の特設ステージでは「準優勝戦」の枠番抽選会が執り行われようとしていた。会場を埋め尽くしたファン、そして全世界8,000万人の視聴者が固唾を呑んで見守る中、一人の青年が姿を現した。

 速水誠。

 その姿を見た瞬間、地響きのような歓声は止み、氷を打ったような静寂が広がった。

 かつての白銀のスーツは、黒影の影響で煤けたような影を纏い、瞳の奥には赤黒い火花が散っている。シロもまた、漆黒の毛並みから黒い蒸気を吐き出す異形の姿へと変貌していた。

 「(誠……見てみろよ。こいつらの期待、全部どす黒く『濁って』見えるぜ。最高だ。俺たちのための餌じゃねえか)」

 シロの快楽に満ちた声が、誠の脳髄に心地よく響く。誠は無機質な足取りで、運命の抽選箱へと手を伸ばした。

3.準優勝戦12R:スタート展示メンバー

 因縁のすべてを飲み込み、準優勝戦のトリを飾る第12レースの顔触れが決定した。

| 艇番 | レーサー | 属性・二つ名 | 覚悟の一言 |

| 1 | 速水 誠 | 闇・黒の密度 | 「……誰にも、この影は踏ませない」 |

| 2 | 河田 元気 | 金・絶対王者 | 「その闇、僕の黄金で焼き切ってあげるよ」 |

| 3 | 守屋 あおい | 水・天女の嫉妬 | 「誠……あなたを、一人にはさせない」 |

| 4 | 大峰 幸太郎 | 木・佐賀の龍 | 「闇だろうが何だろうが、龍が丸呑みにしてやるばい」 |

| 5 | 野田 あかり | 土・整備士の絆 | 「誠さんを、必ず元の場所に連れ戻すっす!」 |

| 6 | 幸田 文哉 | 光・レジェンド | 「若者よ。真の『密度』とは何か、教えてあげよう」 |

 抽選が終わった瞬間、1コースを得た誠と、6コースとなった幸田文哉の視線が衝突した。

 「……速水誠くん。君がその身に宿した黒い石。それが何であるか理解しているかな?」

 レジェンドの声が重く響く。

 「それはかつて鳴門の底に封印されていた『マブイの墓標』の一部……敗者の怨念を吸い込みすぎた、呪われた欠片だ。今の君に、その歴史の重みが耐えられるかな?」

 その瞬間、ステージのマイクが激しいハウリングを起こし、会場のモニターにはノイズが走った。誠の『黒影』が、幸田の言葉に過剰反応したのだ。

 「……重いなら、加速に変えるだけです。幸田さん」

 誠は重低音のノイズを伴う声で静かに返した。

 「あなたのその眩しすぎる『光』も……明日、僕がすべて飲み込みます」

* 絆と侵食(野田あかり):

あかりは遠くから誠の背中を見つめていた。誠の浸食は予想以上に速い。「師匠がどれだけ遠くへ行こうとしても、私の整備は必ず師匠を捕まえるっす」。彼女は「あかり丸」を、誠を打ち砕き、救い出すための究極の調律へとセットした。

* 深淵への解答(幸田文哉):

幸田はあえて6コース(大外)を選択した。それは余裕ではなく、全艇を一望できる位置から誠の闇の「綻び」を突くための戦術。全盛期を超える密度を絞り出し、真のレーサーの姿を突きつけようとしていた。

* 絶対王者のプライド(河田元気):

「道具に呑まれるような奴に、王者の称号は似合わないよ」。河田の差しは、闇さえも切り裂く「光速のフラッシュ」となる。

 夜、閉鎖されたレース場で、万魂石は翌日の決戦を前に異常なエネルギーを放っていた。

 誠は独り、暗い整備室で39号機を磨いていた。

 (……誠。聞こえるか。明日の鳴門は、血の匂いがするぜ。龍の首も、レジェンドの光も、全部俺たちが食い尽くすんだ)

 シロの瞳が赤く燃える。誠は答えず、自らの腕を流れる「黒い血管」の拍動に身を委ね、死の旋回をイメージしていた。

 (……あかり、ごめん。でも、俺はもう、この力がないと……あの場所に届かないんだ)

 かつての白銀の記憶は、万魂石の不気味なハミングにかき消された。

 準優勝戦。それは速水誠が「英雄」として戻るのか、それとも「魔王」として君臨するのかを決める審判。

 鳴門の潮は、今、静かに満ちようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ